Blues / Introduction
吾妻光良さん
近藤房之助さん
 
Blues / 吾妻光良さん

PlayTheBluesGuitar

私の本棚になぜか2冊ある(恐らく1冊は弟の)「PLAY THE BLUES GUITAR」。 ブルース・ギターの教則本です。

出版は1980年。 日本にブルースが伝来してまだそれほど時間が経っておらず、レコードも情報もまだまだ少ない当時の日本国で、よくもまあこんなモノを書きましたねと いう「歴史的1冊」です。 実際この本は20年以上経った今も絶版になることなく、最新の教則本を差し置いて売れ続けています。

吾妻光良さんはこの著者で、ギタリストであります。
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PLAY THE BLUES GUITAR の表紙を開けると赤いペラペラのシート・レコードが綴じ込まれています。まだCDなどない時代ですから。
センターの穴の下には、下のようなクレジットが小さく印刷されています。
  吾妻光良 Guitar
  小出 斉 Side Guitar
今や日本を代表するギタリストのお2人ですが、この頃はまだ2人とも早稲田かどこかの学生だったはず。


さて、ミシン目から慎重にシート・レコードを切り取り、ターン・テーブルに乗せて針を落とすと、レコード独特のノイズの間からアップテンポのシャッフルがフェイド・インしてきて、 「こんにちは吾妻です。」という声がかぶってきました。

当時、この手の教則本の類は、その数自体も非常に少なかったのですが、何と言っても問題だったのはそのノリ。
ロックの教則本の付属ソノ・シートなんかをかけても、いきなりプロのアナウンサーの声で丁寧に「こんにちは」と始まり、 「ではまず、チューニングをしましょう。5弦、A。 (妙な間) ペ〜ン、ペ〜ン・・・」とかなんとかやってるわけです。
ロックの教則本だというのに全くロック的でない空気が全体を支配している訳ですね。

そうした中にあって、このペラペラのシート・レコードの、冒頭からなだれ込んで来る勢いは、まさしく一撃、一秒で、私達をブルース・ギターの世界にいざなうのです。


そしてここから始まってB面(ソノ・シートなのにB面アリ)終了までのわずか10分ほど。その演奏の、まあスゴイこと・・・。

何しろ教則本ですから内容は全てベーシックなものばかりなんですが、そのリズム、ノリ、タメなど全てが異様にカッコよく、 これが2人の大学生がやることか、いや、学生としてやって良いことと悪いことがある!と言いたくなるほどです。

後年、何かの本で読みましたが、このソノ・シートの録音は早稲田の軽音楽部の部室で行われており、 隣の部室で練習中のバンドの音も回り込んできているとのこと。
もう、勘弁して欲しいですよね。こんなカッコ良い音はちゃんとしたスタジオで録った、とでも 言ってもらわないと、私達の精神的安定が図れません。


ともかく、ソノ・シートは一連のカリキュラムを終了した後、再びシャッフルの演奏をバックに、 吾妻さんの「いや〜ブルースってホントに楽しいですね」という台詞とともに終了していきました。

ふ〜。これはすごい本を手にしてしまったぞ。何だかものすごく楽しくなってきた。明るい未来が開けているような気がしてきた!と、 なんとなくそんな気になって嬉しくなったものです。

こうして私は吾妻光良さんを勝手に師として、ブルースを勉強していくことになるのです。



「ブルースを弾くということ」

ところで、この「PLAY THE BLUES GUITAR」のあとがきで、吾妻さんのブルースに対する考え方について書かれています。

当時、既に私も人前で演奏したりという機会も一応多かったのですが、一方で、自分が書いた歌詞でも、自分が作った曲でもないものを演奏することの 意味みたいなものを妙に考えることが多く、それなりに悩みながら楽器を弾いていた頃でした。

結局はアフロ・アメリカンの伝統芸能であるブルースを、我々日本人がやって何になるのかという疑問を度々聞きますし、私もそう思う ことがしばしばあります。しかし、それでも私はブルースという音楽に限り無い魅力を感じ、他の音楽に対しての関心さえ とだえかちになっています。

人によってブルースの捉え方はいろいろありますが、いくつか代表的な例を挙げればまず、ブルースを自分のルーツとして、 それをもとに自分の音楽を発展させていく人達がいます。
そしてブルースの中にどっぷりと浸って、レコードで聞かれるフレーズなどを逐一コピー、レコードでの最良のブルースをステージで 再現することに努める人達もいます。
後者の人達に世間一般は批判的ですが、私はそれ程悪いことだとは思いません。一つのアプローチの仕方として評価しています。

では、この私のやりたいことは何なのか自分なりに考えてみると、やはりブルースには変わりありません。
それぞれの曲を単に題材として見た上で、どの曲を演っても私がやっているとわかる様なオウン・スタイル。しかも黒人の持つリズム感、 パワー等と比べても何ら劣らないものを兼ね備えたオウン・スタイルを持つということ。
その道はまだまだ遠い様です。
・・・PLAY THE BLUES GUITAR あとがきより

私、この文章が本当に好きなのです。
どこがどうと一つ一つ書いていったら止まらなくなるのでやめますが、当時の自分の精神状態にいろいろな意味で作用しています。


というわけで、「PLAY THE BLUES GUITAR」。
この吾妻光良さんのギターとあとがきが、ある意味最もコアな原点となって、私は今もブルースを弾いています。