Introduction
 戦後の廃盤歌謡曲



 
戦後の廃盤歌謡曲 / Introduction

私が日本の(主にB級)廃盤歌謡曲を収集し始めたのは、高校生の頃でした。
これには私の幼少時の家庭環境が少なからず影響しています。

私が中学生になるまでの間、家には貧弱な小型白黒テレビジョンが1台あったきり。
それも茶の間の中心的存在としてとして定位置に配置されているのではなく、普段は物置のような場所に収納されており、見るという段になってようやく茶の間に搬入され室内用アンテナを装着して楽しむ、という全く前近代的なシステムが採られていました。
当然ながら私と弟は、我が家にもカラーテレビジョンを導入するようたびたび蜂起するも、その都度敗北しており、この戦いは小学6年生まで続きました。


ところでこうした体験は、その後大人になった私の中で、単なるノスタルジーだけでは説明しきれない、「あの頃見ることのできなかったもの・聞けなかったものを思う存分見たい・聞きたい」という強烈な欲求に変質して行きました。

しかし大人になった頃にはかつての歌謡曲の類は、もう既に廃盤となっています。
そこで私は中古レコード屋を廻り、聞きたいレコードを探すようになりました(当時そうした店は札幌にも10件近くはあったのです)。
まずは記憶を頼りに、次にジャケット、裏の解説、A・B・C等の状態表示、そして値段、それらを総合的に判断して購入するのですが、お金のない高校生なので、それはもう1枚1枚大事に購入したものです。


それにしても当時の歌謡曲は正しく玉石混淆で、素晴らしい出来のものもあれば、トンでもない代物まで実に多様です。
しかしそれらのサウンドや歌の世界は、全てその頃でしか作られ得なかったという点で、等しく価値を持っているように思います。

嗚呼、レコード!この塩化ビニールで出来た円盤と、「ボチッ」という針の落ちる音から始まる3分間の世界は、今も私の心を捉えて離しません。
ここはそんな戦後のシングル・レコードのチャンネルなのです。

2000.1


▼追記事:レコード整理の1日(2005.1)

この休日、私が愛してやまぬ戦後歌謡の世界=シングル・レコードの整理整頓を決行しました。
今まで何度となくチャレンジし、そのたびに全く成果なく終わってきた理由は自分でも分かっています。
それは、レコード・プレイヤーのそばで作業してしまうから。
場合によっては手に取った1枚目からついターンテーブルに乗せてしまい、興奮して次々聞き続けているうちに泥酔して寝てしまうという過ちを、過去幾度繰り返したか分かりません。
従って本日は、大いなる決意とともに、プレイヤーから隔離された1室にレコードごと移動し、作業を開始したのです。

*

さて、まずは全レコードを、機械的に、五十音順に並べて整頓することから始めましょう。

青江三奈さん・・・、
アグネス・チャンさん・・・、
麻丘めぐみさん・・・、
小学校低学年の男子にとって、アグネス・チャンさんと麻丘めぐみさんは、もう、考えると眠れなくなるくらいのアイドルです。
逆に、小学校低学年で青江三奈さんのことを思って眠れないようなら、それはそれで危険なほど渋いですね。
そして、当ページ「スターのウィスパーカード」の記事>>でおなじみの天地真理さん等へと続きます。


当レビューの初回を飾ったのが、「ハ行」=平尾昌晃さんの「星は何でも知っている」。
カッコ良さとエッチさが交錯して魅力満点です。
その平尾さんが熟年期にリリースした畑中葉子さんとのデュエット「カナダからの手紙」のジャケットを見ると、カッコ良さはすっかり失われている一方、エッチさだけは100%残っており(→右)、これはこれで見事です。
蛇足ながら、同じ「ハ行」にはその畑中葉子さんが後年 殆ど自暴自棄になったように日活入りしてリリースした「後ろから前から」も同居しており、「ハ行」はさながら人生の交差点のような様相を呈しています。


そして"ザ・ピーナッツ"と"ピンクレディ"という 新旧「ピ」対決を経て、フィンガー5。
当時小3の私は、フィンガー5のたえこさんを真剣に愛していました。
今このジャケットを見て、なぜ?と問うのは意味のないことです。Love is blind. 恋は小3の私を狂わせたのです。

ともかく、こうしてこの「別室作戦」は大いに功を奏し、長年懸案だったシングルレコードの整理はここに終了しました。

*

作業を終え、部屋の所定の位置にレコードを五十音順に整頓して並べた私。
冒頭に書いたとおり、その先頭は青江三奈さんです。

彼女のレコードのジャケットの魅力については、既に「伊勢佐木町ブルース」>>のレビューで取り上げたところですが、 手元にはそれにも全く引けを取らない「池袋の夜」なる1枚が!
息を飲む濃さに加え、B面「私にさわらないで」というタイトルの迫力!

「さわらないでと言われたって・・・」と戸惑う外ありませんが、奇しくも同じ「い」から始まる「池袋の夜」と「伊勢佐木町ブルース」。 結局、2文字目の「け」が「せ」を制し、この「池袋の夜」のジャケットが最前列に位置することとなりました。

今、私の部屋では、この青江三奈さんが異様な存在感で全体を見渡し、空気を支配しています。
2005.1