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Bluegrass駅伝的アルバムレビュー「Bluegrass Times」
 
駅伝的アルバムレビュー「BluegrassTimes」 / 城真一郎 -mandolin-

Part of a Story / Good Ol' Persons (1986)
1.Broken Hearted Lover
2.Easy Substitute
3.My My My
4.I Don't Hurt Anymore
5.Center of the World
6.Grey Eagle
7.It's Gonna Rain
8.You're a Flower
9.Crossing the Cumberlands
10.It Seems There's Nothing I Can Do
11.This Young Boy
12.Part of a Story
Kathy Kallick : Guitar, Vocals
John Reischman : Mandolin, Guitar(12), Vocals
Paul Shelasky : Fiddle, Mandolin(12), Vocals
Sally Van Meter : Dobro, Banjo(10), Vocals
Bethany Raine : Bass, Vocals
Clark Delozier : Human Train Whistle(1)
Label/No etc. Flat Rock Records FR104
お買い求め情報 CD-WORLD等で入手可
備 考 アナログ盤(Kaleidoscope F-26)は入手困難かな

Part of a Story / Good Ol' Persons

やっぱり最初は大好きなプレーヤーを紹介したいですね。
John Reischman はマンドリン弾きとしての僕の目標です。

 なにが良いのかって? まず、どんなに激しい演奏でも音色がとてもやさしいこと。そのフレーズは繊細で、独特のウェーブ感が伝わるピッキングが心地良いこと。バンジョー無しのバンド編成でも決してドライブ感を失わせないカッティングワークも素晴らしいこと。そしてそんな彼の良さが一番味わえるのがこのアルバムじゃないかなあと思うのです。

 イントロが印象的な1曲目「Broken Hearted Lover」。イントロ直後のカッティングワーク、微妙にシンコペートするソロパートの荒々しいフレーズなど、何度聞いても飽きることがないです。
 Kathy Kallickの名曲「Easy Substitute」では、シンプルなフレーズをとてもソフトなピッキングで弾いています。その曲の雰囲気を最大限に生かそうとする気持ちがその音から伝わってくるようです。
 彼のマンドリンがもっとも印象的なのが、6曲目のフィドルチューン「Grey Eagle」です。フィドルを完全にくってしまったそのプレイは、マンドリンの音域を最大限生かしたフレーズと、うねるようなアクセントが際だつピッキング、それでいて音色は柔らかなのがとても良くて、しびれます。
 一方、このアルバムで唯一バンジョーの入った「It Seems There's Nothing I Can Do」で聞こえる抑え気味のカットは、明らかに曲の全体的なバランスを保とうとする配慮が感じられます。マンドリンのカットが前面に出ていた他の曲とは曲の雰囲気がまるで違います。このあたりにバンドの音作りに対するマンドリン弾きとしての彼の考え方があるように思うのです。

 そしてタイトル曲の「Part of a Story」です。この曲はKathyとJohnの合作であり、個人的には好きな曲ベスト5に入る曲です。
 この曲でJohnは素晴らしいギタープレイを聞かせてくれています。ライブでもこの曲の時はJohnはギターを弾いていると、実際にアメリカまでライブを見に行った事情通の早川宏之氏が教えてくれました。
 この曲はなんといっても歌詞が素晴らしい。確かに、恋に破れたとかふられちゃったとかいう内容の歌詞がブルーグラスの曲には多いわけですが、この曲はそれらとはちょっと違う、もっと繊細な気持ちを表現しているイメージがあります。おまけにKathyが気持ちの入った切ないヴォーカルで歌い上げている。なんだかしみじみじーんときてしまう、そんな曲なわけです。

 残念ながらGood Ol' Personsは現在活動休止中です。JohnもKathyもそれぞれ演奏活動を行っていて、それはそれで良い感じなんですが、ファンとしてはもう一度Good Ol' Personsとして活動してくれることを願ってやまないのです。

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Nowhere to Hide / The Texas Rangers (1991)
A1. Moods of a Fool
A2. Nowhere to Hide
A3. I Remember
A4. Jesse Polka
A5. Shacks and Chalets
A6. Just Passin' Through
B1. Too Late to Walk the Floor
B2. Ain't No Ash Will Burn
B3. Standing Outside Her Door
B4. Shouldn't Have Told Me That
B5. Song of the Streets
Dave Peters : Mandolin
Jeff White : Guitar, Vocals
Tammy Fassaert : Bass, Vocals
Pat Cloud : Banjo
Label/No etc. ? 自主制作盤なのかなあ
お買い求め情報 ひょっとしたらB.O.M.にはあるかも
備 考 カセットです

Nowhere to Hide / The Texas Rangers

 The Texas Rangersというバンド名を聞いてピンとくる人 はどのくらいいらっしゃるでしょうか?90年代の前半に、瀬戸内海に浮かぶ与島にあ る京阪フィッシャーマンズ・ワーフというところで演奏していたバンドです。数年間 の演奏活動の中でメンバーは毎年変わっていきましたが、このカセットはその初期の メンツ、Dave Peters、Jeff White、Tammy Fassaert、Pat Cloudという素晴らしいプ レーヤー達により録音されたものです。

 はじめてThe Texas Rangersを見たのは、1991年の岡山県美星町のフェスです。大 学を卒業後、岡山のとある製パン会社に就職した僕はその頃、慣れない工場勤務、不 規則な出勤時間、4人部屋の社員寮での生活、すべてにうんざりしていました。いつ も誰か寝てたりするので、部屋の中では好きなマンドリンも弾けず、音楽もウオーク マンで聞いたりして、欲求不満で重たい気分の毎日でした。
 そんな気分を少しでも払拭するべく、会社の先輩に頼み込み、何とか休みをもらっ て出かけた美星町のフェス、そこではじめて彼らのステージを見ました。

 ステージはすごかった。もちろんJeff WhiteやTammy Fassaertの名前は知っていた し演奏も良かったけど、その時のステージで一番かっこよかったのはPat Cloud!。 その不思議なフレーズのインパクトは本当に大きかった。つらくてむなしい日々の生 活、欲求不満で重たい気分を彼らの演奏は吹き飛ばしてくれました。ホント、音楽を きいてこんな気持ちになったのは初めてです。
 その後しばらくして、もう一度あの素晴らしいステージが見たくて、今度は与島に 行ってみました。でも残念なことにそのときはPat Cloudは帰国していて見ることが 出来ませんでした。代わりはなんとMike Bub。演奏はやっぱり良くて、とても楽しめ たけど、出来ればもう一度Pat Cloudの演奏にふれたかった。それで手に入れたのが このカセットです。

 このカセットではPat Cloudはかなり押さえ目のフレーズを弾いています。しかし それぞれの曲のリズムはやはりこの人のバンジョーが支配している感じです。音とし て目立つのはJeff Whiteの芯がしっかりしたギターとTammy Fassaertの張りのあるボ ーカル。またDave Petersのマンドリンはとてもセンスが良く、ナゲットの乾いた音 が心地よく響きます。全体的にとてもまとまりのある仕上がりになっています。

 曲を紹介してみましょう。A1曲目はDelia Bellの「Moods of a Fool」。原曲より 少しアップテンポなアレンジです。キックオフのJeff Whiteのギターはドライブ感に あふれ、Tammy Fassaertのボーカルもその流れを壊さず、それでいて力の抜けたいい 仕上がりになっています。
 A2曲目「Nowhere to Hide」は最近のAlison Krauss & Union Stationのアルバムで もとりあげてましたね。ブルージーな曲調とJeff Whiteのハスキーなボーカルがとて も良くマッチしていて、独特の雰囲気が漂います。
 Dave Petersの美しいクロスピッキングで始まるA3曲目の「I Remember」。これはT ammy Fassaertのお気に入りの曲のようで、彼女のソロアルバムでも取り上げてます 。優しくささやきかけるようなボーカルがなんとも良くて、ほんわかとした気持ちに なります。
 A4曲目はJeff Whiteのリードギターが炸裂する「Jesse Polka」。決して派手では なく、トリッキーなフレーズもないのですが、ギターの響きを大切に、一音一音丁寧 に弾いているのが伝わってきます。それでいてすごくドライブしてるし...。彼のモ スマンのギターの音は本当に素晴らしいですね。
 B1曲目はかなりアップテンポなアレンジの「Too Late to Walk the Floor」。Shad y Groveになんとなく似てる曲ですが、ここではPat Cloudのバンジョーが軽快に動き 回り、曲を盛り上げています。
 そして、僕がこのアルバムのベストチューンと思うのがB1曲目の「Ain't No Ash W ill Burn」です。とても美しいワルツの曲で、Tammy Fassaertの切なげな歌声が心に 響きます。今でもこの曲を聴くと岡山で暮らしていた頃の事が思い出されて、何とも いえない切ない気持ちになります。以前組んでいたバンドでこの曲を演奏する機会に 恵まれたのですが、曲に対する思い入れの強かった僕は妙に演奏に力が入ってしまっ たの覚えています。

 もう一度彼らの演奏が見たいとずっと思っていたのですが、残念ながらDave Peter sは昨年他界してしまいました。もう生の演奏は聴けなくなってしまったわけですが 、せめて残っている録音だけでもCD化してくれなるといいなあ。


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The First Whippoorwill / Peter Rowan (1985)
A1. I'm on My Way Back to the Old Home
A2. I'm Just a Used to Be
A3. I Believed in You Darling
A4. Sweetheart You Done Me Wrong
A5. When the Golden Leaves Begin to Fall
A6. I Was Left on the Street
B1. Goodbye Old Pal
B2. When You Are Lonely
B3. First Whippoorwill
B4. Sittin' Alone in the Moonlight
B5. Boat of Love
B6. It's Mighty Dark to Travel
Peter Rowan : Guitar, Vocals
Sam Bush : Mandolin, Vocals
Bill Keith : Banjo
Buddy Spicher : Fiddle
Richard Greene : Fiddle, Vocals
Roy Husky Jr. : Bass
Alan O'Bryant : Guitar, Vocals
Label/No etc. [CD] Sugar Hill 3749 [LP] Sugar Hill SH-3749
お買い求め情報 通信販売(国内・国外問わず)等で入手可能
備 考 特になし

The First Whippoorwill / Peter Rowan

 このアルバムは、ピーター・ローワンがビル・モンロー音楽に対する敬意と親愛の念を込めたトリビュートアルバムとして位置付けされています。曲はもちろんビル・モンローナンバー、メンツもかつてブルーグラスボーイズに在籍したリチャード・グリーンやビル・キースなどを起用し、さながらブルーグラスボーイズもどきを演出するといった凝りようです。
 このアルバムはピーター・ローワンのアルバムですから、当然ピーター・ローワンを中心に語られるのが自然です。しかしながら、このアルバムの本質は、この「ブルーグラスボーイズもどき」のバンド編成の中でマンドリンを弾くことになってしまったプレーヤー、つまりビル・モンローの代役を演じることになってしまったプレーヤーに焦点を当てて聞いてみてこそはじめて見えてくるように思うのです。そう、なぜビル・モンローの代役がサム・ブッシュなのか、いやサム・ブッシュでなければならないのか、ということを考えながら聴くと、このアルバムはとても興味深い一枚になります。

 単純にブルーグラスボーイズを模倣するのであれば、それこそモンロースタイルと呼ばれるマンドリン弾きを採用するということもできたはずです。実際、このアルバムの数年後、ピーター・ローワンはナッシュビル・ブルーグラス・バンド(NBB)と一緒にアルバムを製作しています。この頃のNBBにはあのマイク・コンプトンがいたわけで、例えば彼を採用していれば、この「The First Whippoorwill」はビルモンローをある意味で極めたアルバムとして非常に濃厚な存在になったに違いありません。しかしその方向では話は進んでいかなかった。なぜなのでしょう...?


 これまでに僕がサム・ブッシュというプレーヤーに対して持っていたイメージは「革命家」であります。ブルーグラスというある種の形式美が尊ばれる音楽の中に様々なジャンルの音楽のエッセンスを持ち込み、卓越したテクニックと音楽センス、そして広い人脈によりその流れを支え、ブルーグラスの可能性を拡げていった人物、それがサム・ブッシュであって、彼の音楽は既存のブルーグラス音楽のアンチテーゼとして存在するものと思っていました。滔々と流れる本流を否定した上に立つ新たな音楽の流れ、すなわちビル・モンロー音楽の否定という上に彼の音楽はなりたっているものと考えていたのです。けれども、どうやらその考えは間違っていたようです。
 少なくともこのアルバムを聴いている限り、彼は決してビル・モンローを否定してはいないし、ブルーグラスの形式美も否定していない。ただし「単純に模倣しない」という意識、この意識だけは強く感じます。「It's Mighty Dark to Travel」のドライブ感あふれるキックオフ、「Sittin' Alone in the Moonlight」でみせたあの高音部の美しいトレモロ、ソロのすべてがダウンピッキングの「When You Are Lonely」の非常に切れのある音色、これらの曲からビル・モンローの雰囲気はくみ取れるけど、やはりこれはサム・ブッシュのスタイルです。すべての曲に「似て非なるもの」という印象が自然に浮かびますが、そこに誰かを否定しているような印象は受けないのです。

 この「似て非なるもの」という雰囲気こそピーター・ローワンがこのアルバムで表現したかった事なのかもしれません。だからこそビル・モンローの代役は、ビル・モンローに造詣が深くかつ独自の音楽世界を持つ人物でなければならなかったのでしょう(もうひとり、このような存在のマンドリン弾きにグリスマンがいますが、こちらはおそらく人間関係の点で却下になったのかなあ、などと勝手に推察しております)。
 偶然なのか必然なのかはわかりませんが、このアルバムから数年後、サム・ブッシュはビル・モンローの教則ビデオの解説をやる事になりました。その冒頭で彼が述べた言葉は「僕は彼のフィーリングを伝えたい。ビル・モンローみたいに弾ける奴なんていないんだから。」です。ビル・モンローに対する彼のこの気持ちは、何年も前から変わっていないのでしょう。

 僕はマンドリン弾きでありながら、このアルバムを聴くまでは、正直いってビル・モンローがあまり好きになれませんでした。あんまり美しい感じでもないし、似たような曲が多いし、なんだかガチャガチャしててうるさいし...。しかし、このアルバムで、サム・ブッシュがビル・モンローの世界というものを優しくわかりやすく見せてくれたおかげで、僕はようやくビル・モンローに興味を持ち始め、次第に積極的に聴くようになりました。彼のフィルター越しに見たビル・モンローはとても美しく、すっきりとした、気持ちの良い音楽でした。しかし、この良さは実は本質的なものであって、モンロー音楽自体の持つ魅力だったんだということにだんだんと気付いてきたわけです。

 なんでも最近の学生の皆さんはあんまりビル・モンローを聴かないとか。一度この「The First Whippoorwill」を聴いてみませんか。間接的ではあるけれど、ビル・モンローの世界も実は魅力的である事が、少しは感じてもらえるのではないかと思います。


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Heartbreak Town / Ronnie McCoury (2000)
1. Heartbreak Town
2. The Road From Coeburn To Warren
3. Somebody's Gonna Pay
4. Lilly Hoskins
5. Dawggone
6. Our Love Never Dies
7. Evangelina
8. Glen Rock
9. Sometimes Sleep Closes These Eyes
10. When The Hurt's Talkin'
11. Cold Lonesome Feeling
12. Noppet Hill Breakdown
13. Last Call
Ronnie McCoury : Mandolin, Vocals
Larry Atamanuik : Drums, Percussion
Rob McCoury : Banjo
Mike Bub : Bass, Vocals
Jason Carter : Fiddle
Del McCoury : Guiter, Vocals
Stuart Duncan : Fiddle
David Grisman : Mandolin
Bela Fleck : Banjo
David Grier : Guitar
Gene Wooten : Dobro
Terry Eldredge : Guiter, Vocals
Jimmy Campbell : Fiddle
Jerry Douglas : Dobro
Label/No etc. Rounder 11661-0453-2
お買い求め情報 CD店や通信販売(国内・国外問わず)等で入手可能
備 考 特になし

Heartbreak Town / Ronnie McCoury

 ロニー・マッカリー初のソロアルバムだし、メンツも豪華だし、購入前からそれはそれは期待してたアルバムです。しかし最初に聴いたときの印象は「なんかイマイチ」。そう思った人、結構多いんじゃないでしょうか? 結局数回聴いた後、それきりになってしまいました。
 じゃあ、どうして今回CDレビューに取り上げたのか、それは「なぜこのアルバムはつまらなく感じたのか」をテーマに考えてみようと思ったからです。今をときめくロニー・マッカリーの入魂の一枚がなぜつまらなく感じたのか? 確かに期待が大きすぎたといえばそれまでですが、もっと他に理由があるのではないかと思い、今度は気合いをいれて少し丁寧に聴き返してみたわけです。

 まずロニーの演奏はどうでしょう。ロニーのマンドリンを聴いていていつも思うのは「いやー、はじいてるなあ」ということです。マンドリンは弦楽器だからピックで弦をはじいて音を出すのは当たり前ですが、ロニーはそのはじき具合に個性を感じます。8本の弦を最大限響かせようとする確実でそして力強いピッキングです。ロニーは、例えていうなら、フルスイングで強い打球を弾き飛ばす中村紀洋や小笠原道大のようなホームランバッター、そんなプレーヤーだなあと思うのです。もちろんこのアルバムでもそんな彼の個性は存分に発揮されていて、十分に楽しめます。また歌にしても、ピンと張りつめたテンションの高いボーカルで、さすがデルの息子といったところです。特に7曲目の「Evangelina」などステージでもやっていたと思いますが、好きだなあこういう感じ。

 それではバックのメンツはどうでしょう。全13曲のうち7曲がほぼデル・マッカリー・バンド、2曲がほぼサイド・メン。悪いはずがありません。その他の曲でもベラ・フレックやジェリー・ダグラスらが好サポート。スチュアート・ダンカンとジェイソン・カーターによるツインフィドルのアレンジが多いのも魅力です。

 曲をみてみましょう。全13曲のうち9曲がロニーの曲。そのうち4曲(2・5・8・12)がインストです。確かに癖のある曲もあるけれど、だからといってとりたてて悪い曲だとは思えません。特に5曲目の「Dawggone」はドーグ調の曲で、途中グリスマンとの掛け合いもあって二人の音の違いが楽しめる非常に聞き所のある演奏です。

 改めて聴き返してみて、このアルバムは非常に丁寧に作られた曲の集まりであることを感じました。一曲一曲のレベルは高いし、それぞれ聞き所も多いし、ロニーのもつ音楽性というものがいろんな方向から伝わってくるアルバムです。総じて言えば良いアルバムのはずなのです。それならば最初に聴いたときの「何だかなあ」という印象はいったい...。
 僕は、これは曲順の問題ではないか、と考えました。つまり一曲目(タイトル曲)から続く4曲が、同じ様なテンポでだらっとつながっている感じで、今一つインパクトに欠けるのです。しかも一曲の演奏時間がブルーグラスにしては長い(順に3:28, 5:10, 2:30, 4:15)。特に2曲目のインストなど途中で飛ばしたくなります。やっぱりアルバムの印象は最初の何曲かである程度決まると思うんですが、最初の方に飛ばしてしまいたくなる曲があるというのは、やはりマイナスです。曲順の問題はきっと原因の一つにあげられるのではないかと思います。試しに5曲目を一曲目に指定して、あとをランダムに流してみたところ、これはなかなかいい感じに聴こえたのですが、ちょっと無理がありますかねえ。

 このアルバムについて、ムーンシャイナー誌上でのレビューで秋元氏は「完成度が高すぎるのが唯一の弱点」という表現でまとめています。矛盾した表現だと思いますが、実際聴いてみると、この感じ、なんとなくわかります。


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Laura Boosinger / My Carolina Home (1990)
1. When The Roses Bloom In Dixieland
2. Sweet Sunny South
3. Grandfather's Clock
4. I Will Arise
5. Under The Weeping Willow Tree
6. What'll We Do With The Baby-O
7. Free Little Bird
8. Over The Mountain
9. Wondrous Love
10. Pretty Little Miss Out In The Garden
11. Are You Tired Of Me My Darlin'
12. My Carolina Home/Carolina Moon
Laura Boosinger : Vocals, Banjo, Guitar(4,9,10), Lap Dulcimer
Raymond W. McLain : Guitar, Mandolin, Fiddle, Vocals
Mark Schatz : Bass
Steven Heller : Guitar(11), Vocal(1)
David Holt : Harmonica
Label/No etc.Upstream Records UP888
お買い求め情報通信販売(国内・国外問わず)等で入手可能
備 考特になし

Laura Boosinger / My Carolina Home

今年の2月27日、 我が家に長女が誕生しました。
 名前は「春佳」といいます。
 もうすぐ4ヶ月。からだも日に日に大きくなり、顔もだいぶまるくなり、あやすと笑ってくれるようになり、いろいろ大変なこともあり ますが、それなりに心和む毎日です。

 いわゆる「親バカ」という言葉は僕には絶対に似合わないと思っていたのですが、いざフタを開けてみると、どうやら完全なバカ状態のようです。思い 起こせば、生後1週間で病院から帰る途中の車の中では特別編集したバンジョーインストアルバムを聞かせ、寝つきが悪いときにはとりあえずブルーリッジキャビンホームを念仏のように唱え、絵本 を読み聞かせるついでにムーンシャイナーも読み聞かせ、CDコンポの横にゆりかごを置き寝ている赤ん坊に小音量でブルーグラスを聞かせる睡眠学習法も取り入れ、さらには...。いや、もうやめてお きます。まあ親としては、適度に音楽好きな娘に育ってくれればなあ、なんてことをぼーっと考えてたりしているわけです。

 さて、子供にとって見れば全く迷惑千万な話ですが、僕には娘に 対する漠然とした夢があります。それは、大きくなったらクローハンマーバンジョー弾きになって歌を歌ってくれないかなあというものです。なんだかずいぶん限定した夢ですが、そんな思いが強くなっ たのも、このアルバムを聴いてからのような気がします。それが今回紹介するLaura Boosingerの「My Carolina Home」です。

 学生の頃からクローハンマーバンジョーには興味がありまし た。最初はTNNの音楽番組「New Country(だったと思う)」の司会をしていたDavid Holtの演奏だったと思います。彼が番組の導入部で一曲披露するわけですが、よくクローハンマーバンジョーにギタ ーとベースというシンプルな構成でオールドタイムなどやっていたのを覚えています。ブルーグラスのバンジョーとはちょっと違った、肩の力が抜けた優しげなクローハンマーの音色がとても心地よく 思えました。
 それからだんだんと興味がでてきて、クローハンマーバンジョー入りの音楽を意識して聴くようになりました。あの頃好きだったのはCathy Finkで、なかでも"Banjo Picking Girl"が お気に入りでした。バンジョーでバッキングをしながらの歌、ちょっとハスキーな声、ブルーグラスとは少し感じの違ったドライブ感、ソロもすごくメロディアスで、そんな不思議な感覚がとても新鮮であり 、単純にかっこいいなと思いました。そんな感じでいろいろ聴いているうちに「クローハンマーバンジョーを弾きながら歌う女性」というのが僕にとって気になるカテゴリーのひとつとなっていきました 。

 社会人になったある日、後輩のマコちゃんからLaura Boosingerという人の「My Carolina Home」というアルバムを教えてもらいました。ジャケットにはクローハンマーバンジョーを抱えた 女性がにっこり微笑んで立っています。新たな「クローハンマーバンジョーを弾きながら歌う女性」の出現になんとなく浮かれた気分になりました。

 一曲目の「When The Roses Bloom In Dixieland」がかなり良い感じで入ってきました。それはひたすらシンプルで、奇をてらった所などまるでなく、それなのにずいぶんと印象に残ります。飾り気のない声で語りかけるように歌う感じが妙 に心地良く、つい「ふぇんざろーじすぶるーみんいんでぃきしーらん〜」などといっしょに口ずさんでしまうのです。バンジョーの音も、Cathy Finkの場合はリズムもきつめで音数も多くブルーグラスのノ リで聴けたのですが、Laura Boosingerの場合は似たようなフレーズを繰り返し演奏するどちらかといえばオールドタイムのノリでして、これがなんだかいい感じに響いています。二曲目以降もいたっ て普通の曲が並んでいて、派手さのないフレーズをやっぱり丁寧に丁寧に演奏しています。ともするとさらっと聞き流してしまいそうな選曲と演奏、でもなんだかとても良いのです、ほのぼのしててそ れでいてじーんとしみる感じなのです。僕はこのアルバムがとても気に入ってしまいました。

 心に残る音楽というのは案外こんなシンプルなものなのかもしれません。丁寧に歌い、丁寧に 演奏し、決して奇をてらわず、決して力まず...。これは音楽のジャンルの問題ではなく、心地良い音楽というものには共通して存在することのような気がするのですが、どうでしょう。

 その後 、僕の一番大事な癒しのアルバムとして、事あるごとに聴いています。「クローハンマーバンジョーを弾きながら歌う女性」の一人であるLaura Boosingerは、僕にとって最も気持ちの良い音楽を創りだ してくれる存在となりました。つまり...そうです。できれば自分の娘にもそんな存在になって欲しいわけです。
 例えば女の子がクローハンマーバンジョーを肩にかついでぶらりとフェスに行くってい うのはなんだか粋な感じがしませんか。それに将来そんな娘と一緒にフェスに行くなんて考えただけでも楽しそうです。これはまさにブルーグラスな親バカの極致ですね。


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