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Bluegrass駅伝的アルバムレビュー「Bluegrass Times」
 
駅伝的アルバムレビュー「BluegrassTimes」 / 篭橋孝治 -bass-

Peter Rowan & The Wild Stallions/ Peter Rowan & The Wild Stallions (1982)
Side One
1. I Can't Get Mellow
2. The Hotter She Burns
3. Fool Myseif Again
4. Baby Let's Play House
5. Call It Love
Side Two
1. A Woman In Love
2. Cries Of Love
3. Refugee
4. Sheila
5. Rendezvous
6. Promavera Dell'amore
Peter Rowan : Lead Vocals,Guitar,Mandola
Jon Sholle : Electric & Acoustic Guitars
Roger Mason : Bass,Vocals
Barry Lazarowitz : Drums,Percussion
Guest Musicians
Kenny Kosek : Fiddles,Piano
Andy Statman : Saxophone,Mandolin
and so on.
Label/No etc. Appaloosa AP 016
お買い求め情報 怪しい行商人から購入。これ以外では、このアルバムについて、影も形も噂も聞いたことがありません。
備 考 本当に欲しい方には、このアルバムを差し上げます。(ピーターローワンの直筆サイン付)

Peter Rowan & The Wild Stallions/ Peter Rowan & The Wild Stallions (1982)

 もし、ブルーグラスリスナー道というものがあって、そこにグレードを示す尺度があるとするならば、僕は3級ぐらいになってしまうので はないか、と思う。この場合、大学サークル卒程度の標準的なブルーグラスアルバムの鑑賞経験があれば2級は取得できるものとする。それ くらい、僕はブルーグラスという音楽のアルバム鑑賞に関しては興味をもてなかったし、そこから何かを得たい、という欲望もなかった。ただ、 人と一緒に楽器を鳴らすのが好きでブルーグラスを続けることができていただけなのである。
 だが、卒業して就職して、楽器をいじる時間も環境も制約されるようになると、日常的な音楽活動の中においてリスニングの持つ意味合い が大きなものになってしまった。当然、学生時代より余暇は少なくなっているので、量的に、ではなく、質的に、である。忙しい毎日を送る 中で、神経が過敏になり、音楽的環境への枯渇感が増していき、僕は、中学生の頃、現在称されるところの“ニューロマンティック”音楽を 聴き狂っていた時代並に、深く大切に感受性豊かに、音楽を聴くようになってしまったのだ。そして、“ブルーグラス”という、自分のやっ てきた音楽の他人の演奏がこんなに興味深いものだったのか、と気づいたのは、この頃からのことだった。

 そんな中、遅まきながら、僕のブルーグラスにおける嗜好性を決定付ける2枚のアルバムに出会った。

 ブッチロビの“Fifth Child”とデルマッカリーの“Sawmill”、である。

 2枚とも学生時代から、ブルーグラス右派の先輩たちの会話において頻繁に名前のあがる名盤であったことから、その存在と名前は知っ ていた。“Fifth Child”は3,4年前に御茶ノ水の中古レコード屋に売っていたものを購入。希少品の“Sawmill”は、2,3年前よく遊びに いっていた千葉県習志野にある洋食屋“Apple Seed”にて発見。オーナーがブルーグラス人で、仲良しだったので快く貸してくれた(現在も借 りっぱなし、早く返さなきゃ!)。特に、“Sawmill”は、僕にとってのブルーグラスの完全体が表れているようなアルバムである。
 そして、今回の僕の初レヴューでは、偉大なるブル研先輩後輩同輩諸氏に向けて、このソリッドグラスの極み、とも言うべき“Sawmill”を とりあげ、直球ど真ん中勝負を挑むつもりであった。リスナー道3級の僕が、このような王道感溢れるアルバムに触れてしまっていいのだろ うか、という迷いはあったものの、だからこそ大きな意義があるのだ、と考え直し、半ば使命感さえ伴う壮絶な決断であった。

 そんな中、ひとつの事件が起きる。今年の1月、出張予算消化のための官僚・松本さんの上京である。

 事前に上京する旨を知らされ、接待を強要されていた僕は、ブルーグラス・カントリー系ライブハウスの銀座“Rocky Top”を当然のこと のように、接待場所として選んだ。接待要員は僕と近藤(ブル研卒、同期)。そこで、ブルーグラス周辺のよもやま話に花を咲かせていく中で、 話が“ハシモトコウ・アワー電子版”のアルバム・レヴューに及んだ。
 僕は、北海道ブルーグラス界のご意見番・松本さんを前にし、上記のような決意があることは胸に閉じ込めつつ、サラりと初レヴュー において“Sawmill”をとりあげることを宣言した。リスナー道有段者に対する精一杯の対抗意識が僕をそうさせたのだろう。社会人になって も異国の地でブルーグラスを続けている僕が、いかに成長しているかを都合よく勘ぐってくれれば、僕が“Sawmill”のレヴューを書くことは、 すんなり受け入れられ、何事もなかったかのごとく話題は別のものに移っていくに違いない・・・。そんな“賭け”にも似た高揚する気持ちを抑 えながら、アッサリと、宣言してみた。
 松本さんの反応は、

 「おまえがあぁぁ!?」

 ・・・・・。

 瞬間、僕の決意はもろくも崩れ去ってしまった。
 まるで、「お前には、“Sawmill”のレヴューなんぞ書く資格はない!!」と、言わんばかりの反応である。
 ・・・すっかりやる気をなくした。
 3級の人間が、有段者からそう言われてしまったのである。当然のことであろう。
 やはり、僕にとって“Sawmill”は、触れられない、触れてはいけない、アルバムだったのだ。

 そして、僕の純粋なブルーグラス魂は、すっかり腐ってしまった。

 今回は、直球ど真ん中勝負をやめた。
 目をつぶって変化球を投げることにする。

 前置きがメチャクチャ長くなってしまったが、そこで、とりあげたのが上記のアルバムである。“Peter Rowan & The Wild Stallions”とジャケットに記載されているだけで、特にアル バム名は記されていない。
 このアルバムは、僕がブル研4年目か5年目のとき、サ館によく出入りしていた怪しい行商人から買ったものである。その行商人は、確か “発見洞”という中古レコード屋を営む“松田さん”と言われる人物だったと記憶している。体格は小太り、顔は元大関・北天佑を優しくした感じ、 髪型は篠山紀信、といった風体をしていたと思う。サ館4FのJAZZ研とブル研を主なターゲットに日々の行商を営んでいた。覚えている人も 多いことだろう。津久井も、ブルーグラス・カージナルスのアルバムを中心に何枚か怪しい商品を掴まされていたはずである。
 怪しい行商人ではあるが、当時ブルーグラス系アルバムを入手する手段として一番励行されていた“プー横丁”の通販利用よりは、商品の 顔が見える分、僕にとっては安心して購入できるレコード屋であった。彼が持って来た多種多様に及ぶマニアックなレコードの中から発見し たのがこのアルバムで、見た瞬間思わず“ジャケ買い”してしまった。
 あの、ピーターローワンが思いっきりロックンローラーになりきってしまっているのである。

 7色に輝く2台のジュークボックスを前に、ストラトキャスターを持ったピーターローワンが、古き良きロックンローラー風のポージング をとっている。そのイデタチは、黒のスラックスに黒のシャツ、ピンク・オレンジ系のジャケット、シャツの大きな襟は立っており、 胸元ははだけて、金のネックレスと“Wild Stallion”の称号にふさわしいセクシーな胸毛が露出している、というものだ。
 このジャケットから連想されるアルバムの内容は、8ビートのシンプルな、それでいてノリノリのロックンロール、といった感じで、それ こそ、当時僕が求めていた鑑賞音楽なのである。そして、何よりも、謙虚かつ真摯な態度でブルーグラスやさまざまな伝承音楽を嗜もう といった感の強い(当時)、ピーターローワンが、そのような挑発的なポージング&イデタチでジャケットに収まっていることが、僕のツボに 入ってしまったのだ。そんなジャケ写真を見てしまっては、自分のものにしてしまうこと以外に僕のとるべき行動は見当たらなかった。
 たぶんその日の晩は、いつものメンバーとの会食もそこそこに、自室に帰り、その慈しみ深きレコード盤の上に針を落としたことだったろう。

 1曲目はそんな僕の期待を裏切らないノリノリ8ビートのロックンロールナンバー! 抑制の効いたスネアドラムの音が、テムテム、と 軽快に、心地よく響く。“Great Balls Of Fire”を歌うジェリーリールイスの如く、小刻みな息遣いで早口をまわすピーターが何とも気持 ちよさそうだ。
 ♪♪ オッホゥゥイェえええええぃぃィ!!!
  ♪♪ ぁ〜〜〜〜〜〜〜あッフゥゥゥゥ!!!
   ♪♪ イャぁあああああオォォォうぅ〜〜!!!
間奏のところで、ピーターが気合の入った叫び声を上げると、僕も爆竹かパーティークラッカーを連発で鳴らして、彼を盛り立てたくなる。 ジャケットから想起されるイメージを裏切らないノリノリの好ナンバーだ。

 この勢いで、最後まで突き抜けて欲しかったのだが・・・。以後は、期待を裏切る退屈な曲が続く。
 収録曲が多彩すぎるのだ。シンプル8ビートあり、カントリーあり、泣き落とし曲あり、バラードあり、その他、私の音楽ボキャブラリーで は表現できない曲など。それはピーターローワンの幅の広い音楽性を示すものなのかもしれないが、一本気なロックンロール野郎風情の音楽を 期待していた僕としては、かえって物足りなさを感じる内容なってしまっている。また、安易なフェイドアウトが多いのも気になるところであ る。ブルーグラス流の予定調和的な終わり方を避けたいがためにフェイドアウトに頼ってしまったのだろうか?
 そして、このような、必要のない多彩さ、安易な表現への陥りを、ピーターローワンのブルーグラスアルバムにも感じたことはないだろう か?
 ゲゲゲ!!3級なのにピーターローワンの揚足取りをしてしまった!

 ここまで記述して、『ハッ!』とした。上記の欠点はこのレビューの文章にそっくりそのまま当てはまってしまうではないか!!

 ま、いいや。
 最後の曲は、マンドラの深い響きが印象的なイントロに始まり、熱唱ともいえるテンションの高い歌唱を経て、荘厳な雰囲気を醸し出しつ つ終わっていく。しかし、期待していたサウンドを堪能しきれなかった僕は、何か背中に痒いところを残したまま、レコードを片付けること になる。


 もうしばらくすると、桜の花が咲く季節となる。
 フェスシーズンの始まりだ。4月21日からの茨城美野里町皮切りに、今年もあらゆる場所でブルーグラスを楽しんでいくことだろう。
 これらを経て、僕が純粋なブルーグラス魂を取り返したとき、再び、直球勝負を決断してみたいと思う。


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