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Bluegrass駅伝的アルバムレビュー「Bluegrass Times」
 
駅伝的アルバムレビュー「BluegrassTimes」 / 木山保 -mandolin-

Country Songs Old & New / The Country Gentlemen
1. Roving Gambler
2. Little Sparrow
3. Drifting Too Far
4. Weeping Willow
5. Tomorrow's My Wedding Day
6. Story Of Charlie Lawson
7. Turkey Knob
8. Paul And Silas
9. Ellen Smith
10. Long Black Veil
11. Honky Tonk Rag
12. Jesse James
13. Have Thine Own Way
14. Good Woman's Love
15. Double Eagle
16. Darling Alalee
Eddie Adcock : Vocals, Banjo
Jim Cox : Vocals, Bass
John Duffy : Vocals, Mandolin, ArrangerVocals, Mandolin, Arranger
Charlie Waller : Vocals, Guitar, Arranger
Label/No etc. SMITHSONIAN/FOLKWAYS
お買い求め情報 「インターネット・ショッピングはできそうです」
備 考 その他、情報等

Country Songs Old & New / The Country Gentlemen

 はじめまして,1976年北大ブルーグラス研究会入部の木山です。 橋本君提案のこの面白そうな企画,いい年したおじさんがついうかうかと 乗ってしまいましたが,bluegrass周辺の音楽からすっかりご無沙汰しており, どうなることやら。まあ思いついたこと,気ままに書かせてもらいます。
 音楽の紹介というのは,ある意味ではその人間の感性を含めた自己紹介みたいな要素が強いと思います。この先ひょっとすると私の場合,ずっと自己紹介あるいは回顧録に終始するかも知れませんが,北大ブルーグラス研究会創世記(本当は私より上の先輩がたくさん居られます)からの昔のbluegrass状況を発掘・再発見する上でそれも面白いのかも・・・と。

 さてそこで,この第一回目に,ジャケットの写真もデータも無いというのにどうしても紹介しなければならなかったのは,The Country Gentlemen のWill the circle be unbrokenの入ったアルバムです,というかこの1曲。私(kiyama)が,まだ大阪で高校生をやっていたときたまたま出会い,bluegrass周辺の音楽にズブズブとぬか漬け状態になっていった契機の1曲,いわば私の人生を変えてしまったとまで言える曲,訳名で「永遠の絆」。こういう曲,みなさんにもきっとあるはずです。おかげさまで,その後北大に進み,ブルーグラス研究会でたくさん学生をさせてもらうことになりました。

 耳を傾けてみましょう。まずJohn Duffyの切れの良いmandolinのイントロで始まり,そのままDuffyのボーカルに入っていきます。主旋律の歌の後ろでBackup Coruseが神聖なイメージを醸し出しています。2回の間奏はどちらもDuffyのmandolin。そのうち一つは哀愁漂うクロスピッキング,でもそんなに取り立てて上手いわけではない,どちらかというと小不器用なのがDuffyです。もう一つはトレモロの間奏,Duffyをご存じの方はわかると思いますが,一音一音ゴン太で存在感のある音を,ボトボトボトと落としていく感じ。なお,このmandolinは「ダック」ではなく,ちゃんとしたGibsonのmandolin,音がダックより繊細。ダックというのはDuffy自作の菱形をしたmandolinでSeldom Sceneなどではずっと使っています。ダックを演奏するDuffyの写真だけを見て日本のメーカーがコピーのmandolinを製作したところ,随分サイズの小さいmandolinができてしまった,おかしいなあと思ってアメリカで実物を見たら,Duffyは身長2m弱の化け物で,ダックもずっとデカかったという逸話が残っています。一方,Duffyの持っていたGibsonのmandolinも少し変わっていて,F5のBodyにF7(そんなのがあるかどうかよく知らないが)のネックをつけていたとか。ダックの話もGibsonの話も話半分で聞いておいて下さい。

 話がそれましたが,この曲,とても良い曲です,名曲です,良い曲なんですが,しかし今にして思えば,あるいはみなさん(bluegrassに精通している人々)が今聞いたとして,「bluegrass漬けのきっかけになるほどの曲かなあ?」と思うかも知れません。

 この曲を始めて聞いたのは,1975年の春頃。高校3年生。このころ私は,吉田拓郎などのフォークからスタートし,中川五郎がBob DyranのNorth Country Bluesに日本語の歌詞を付けた受験生ブルースに明るいメロディをつけてヒットさせた高石友也がアメリカに渡って覚えてきたbluegrassに日本語の歌詞を付けて始めたナターシャーセブンの曲などを,友人たちとやっておりました。この時点で私は,bluegrassを知っているけれどbluegrassの外に居たのです。当時高石友也は,夕方のFM番組をやっており,いろんなジャンルの音楽を流していました。ドックワトソン,Osborn Bros.,などの存在もこの番組で知りましたが,とにかくこっちは何も知らないので,曲がかかる寸前に録音を開始する,しばらく聞いて気に入ればそのまま保存,ちょっと違うなと思ったら録音を中止して元に戻す…というような面倒な作業を受験前にせっせとやっておりました。そんなある日,このThe Country Gentlemen のWill the circle be unbrokenが流れてきました。Bluegrassとしての構成がどうのこうのとか,音楽としての完成度がどうだとか,それはあとになってbluegrassの内側に入っていろいろわかってきてから思うこと…ここでは関係なかった。この曲を聴いて,理由などない,背筋に電気が走るような感動を覚えたのです。いまならすっかりひねてしまって,ついついテクニックがどうだの,アンサンブルがどうだのと,知ったような口をきいてしまいがちですが,本当に個々人それぞれの音楽との出会いなど,もっと単純でもっと純粋なもののような気がしますがどうでしょうか?

 それからは,レコード店に走り,The Country Gentlemenを追求するとともに,Jambo(日本製)のA型mandolinを仕入れ,Duffyのmandolinのコピー(Heart Aches,Night Walk,Sun Rise…)にのめり込んでいくことになります。一緒にやっていたBanjo弾きにアドコックのBanjoを要求して困らせたものでした。

 今日はここまで,読み返すと曲の紹介部分がほんの少しでした。まあこんなもんです。次回,札幌に場所を移し,1976年頃の様子を示す曲を紹介したいと思います。

(おわび)今回,原稿送付日の今日までに,The Country Gentlemen のWill the circle be unbrokenを探すことができませんでした。それでジャケット写真などにはThe Country Gentlemen の別のアルバムをとりあえず添付します。誰か持っている人,データを提供して完成させて下さい。


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Fly Through the Country / The New Grass Revival
1. Skippin' in the Mississippi Dew
2. Good Woman's Love
3. Glory
4. All Night Train
5. Fly Through the Country
6. This Heart of Mine
7. Dancer
8. When She Made Laughter Easy
9. Doin' My Time
10. These Days
Curtis Burch : Vocals, Dobro, Guitar
Sam Bush : Vocals, Electric Guitar, Fiddle, Guitar, Mandolin, Slide Mandolin, Steel Guitar, Violin, Producer
John Cowan : Vocals, Bass
Courtney Johnson : Vocals, Acoustic Guitar, Banjo, Guitar
Kenny Malone : Drums, Percussion, Conga, Guica
Charles Cochran : Piano
Chuck Cochran : Electric Piano, Piano, Steel Drums, Synthesizer, Producer
Bobby Wood : Piano
Larry Boden : Mastering
Garth Fundis : Engineer, Producer, Remixing
Jim McGuire : Photo Concept, Photography
Label/No etc. FLYING FISH RECORDS
お買い求め情報 CD盤はWhen the Storm Is Overと一緒になっているのかな?
備 考

Fly Through the Country / The New Grass Revival

1976年(昭和51年),今から24年前,十二支で私の二周り(ちなみに2周り下の酉年の人たちが今年学生になる),みなさんはどうしておられましたか?まだ生まれていなかった人も居られるでしょう。私はその4月,大阪から札幌は北大に,Jambo(日本製)のA型mandolinとYamakiのギターを持ってやってきました。高校時代,The Country GentlemenのDuffyを追求するステップまで進展していた私のBluegrass人生,大学の案内に「Bluegrass研究会」というのがあったので,さっそく訪ねてみました。

が,「なんじゃこれは!?」と思うほど,先輩諸氏は上手かった(少なくともそのときはそう感じた)。ギターで言えば,リズム・Gラン・音色とにかくギターではダントツの滝田さん,レスターの市川さん,トニーライスの三沢さん,チャーリーウォーラーの松本達也さん,楽しい広岡東一さん,バンジョーでは,スタンレー石田さん,ドライブ松本友信さん,スイング近藤さん,ハイテク強谷(すねや)さん,マンドリンでは,いつもどこでも世話役・リーダー役の本田さん,きっちりオズボーン佐古さん,ハイテク千葉さん,なお当時,福原部長(もともとマンドリン弾き)はフィドル弾きとして活躍。私にはこんな風にはとても弾けそうにない・・・どちらかというと音楽的遺伝子に恵まれている方ではないので,本田さんに「私はリスナーとしてクラブに所属したい。」と申し出ました。と,「木山,Bluegrassは自分で演奏しないと理解できないし,面白くないんだ。」と言って,後にも先にもこれ1回きりだぞ,メシおごってやる・・・とのことで,札幌駅地下街ニシムラのカレーショップコロンボでルーもご飯もお代わり自由のジャンボカレー(今でもあるだろうか?)をご馳走になり,2回お代わり合計3杯をたいらげ,結果としてマンドリン弾きとしてクラブに入ることになりました。なんと安上がりな。ちなみに宣言どおり,本田さんにおごってもらったのはこの1回のみ。その後私たちは,本田さんから学んだ技法に磨きをかけ,毎年4月になると,あの手この手で,いたいけな新入生をBluegrass Worldに引きずり込むようになっていきました。

さて、当時クラブで流行っていた音楽はクラシカルなBluegrassで、モンロー、フラット&スクラッグス、スタンレーはもちろん、シェナンドー・カタップスなども盛んに取り入れられていました(紙面がもったいないけど実にくだらない脱線・余談をどうしても:福原さん,佐古さん,広岡さん、松本さんの当時のバンド名、シェナンドーカタップスの「カタッ」を「勝った」と無理やり読んで「負けんどー勝ったップス」。さらにエスカレートして、当時人気の小兵の力士鷲我山(わしゅうやま)に因んで「わしゅうやまけんどー(わしゃ、負けんぞー)」というバンド名に、ステージでは毎回それだけで笑いをとっておられた)。本田さんに「北大ではジェントルマンはやってないよ、あれはBluegrassじゃないからね」と言われたのを憶えておりますが、これは象徴的な一言で、クラシカルなBluegrassから見れば、ジェントルマンは新しすぎる邪道な?!Bluegrassと位置付けられていたように思えます。

ところが実はその頃、既に、もっともっと新しいBluegrassに関連する音楽の波が押し寄せ始めていたのです。新しいBluegrassの波、一つは昨年来日したグリスマン率いるグリスマンクインテット、そしてもう一つが今回紹介するNEW GRASS REVIVALというわけです。ジェントルマンしか知らなかった私にすれば、ビルモンもF&SもNGRも整理されないまま一気に押し寄せてきたのです。さらに強烈なことに、この年、このNEW GRASS REVIVALを札幌に呼ぶことになった。さあ大変、まずは予習しなくては、早速、五番街ビルのタワーレコードでNEW GRASS REVIVALのレコードを買いに。当時は札幌で結構珍しいBluegrassのレコードも手に入った、というか商品管理が行き届いていない時代だったので、買われる当てもなく「通な」レコードが紛れ込んでいたようです。そのとき買ったのが「FLY THROUGH THE COUNTRY」。家に帰って聞いてみた。が、しかーし、この音楽、なんのこっちゃさっぱりわからんで。

NEW GRASS REVIVALを札幌に呼ぶ企画、「ジューンアップル札幌」というグループでやっていました。「ジューンアップル」というBluegrass情報誌が東京(?)にあり、本田さんが札幌の支局員みたいなことをやっていた関係で、札幌のBluegrass関係者、社会人も学生も、なんだかわけもわからずひとまとめに「ジューンアップル札幌」のグループメンバーに、入っているのか入っていないのか自分でもわからないという状態。たしかに、この時代まではBluegrass人口も少なく、大したイベントもなかった(とは一概に言えない、過去にジェントルマンが札幌に来ているが)ので、「ジューンアップル札幌」に入っているかどうか、問題ではなかったようです。ところがNEW GRASS REVIVALを呼ぶとなると、いろんな問題が出てくる。実労働、出資、券売、情宣、etc.・・・社会人も学生も同じノルマなの?スタッフは係りによってはコンサートが見れないの?打上げは「ジューンアップル札幌」に入っている人間だけでできるの?クラブとしてはどう対応するの?・・・その後、外タレを呼ぶときは毎度お馴染みの問題となるのですが、このときは先輩諸氏もほとんどはじめての経験だったように思います。もめました、もめにもめました。私はおっちょこちょいですから当然スタッフに入っており、クラスや下宿の友人に一律ノルマのチケットを買ってもらい、興味のない人間にチケットを売る後ろめたさと、これがBluegrassを聞くきっかけになるかもしれないじゃないのという楽観的自己暗示に挟まれて、やがてコンサート当日、中島公園となりヤマハセンター特設ホールにおける本番のときがやってきました。

1曲目が何であったか、実は憶えていない、アルバムと同じで、多分Skippin' in the Mississippi Dewだと思う。が、そんなことより何より、さきほど「なんのこっちゃさっぱりわからんで」と言った音楽が、1曲目のイントロの最初の1音でドカーンと飛び込んできた、「サムブッシュ、『なんのこっちゃ』なんて言って悪かった、あんたのやりたいこと、理解するよう努力させてもらいます、以後、あんたのやることについて行きまっせ」。わたしの見る初めてのプロのBluegrassが、こともあろうにNEW GRASS REVIVAL。当たり前の話で恐縮ですが、音の一つ一つの説得力がプロは違う(アマからプロになられたHARD TO FINDの小松崎さんたちもそうだったが、プロでやると宣言して、プロでやり始めたときから「ほんまもんの音」になり、私を感涙にむせばしめるようになった)。4人の中でもやはりサムブッシュ、カットのときもソロを弾いているときも右手の動きが同じで、大きく振り下ろされている。どうしてあれでソロが取れるのだろうか?リズムの切れの良さ、洗練されたソロ、熟成されたアンサンブル、曲そのものが持つ素材を活かし、彼の新しい切り口で調理している。聞く者に、はっとさせる新しいコンセプトと親しみ・馴染みのある安堵感を同時に与える。アルバムとコンサートの紹介がごっちゃになっていますが、私はここでぜひ、FLY THROUGH THE COUNTRYの中のGOOD WOMAN'S LOVEを聞いていただきたい。素材はビルモンローも歌うクラシカルなBluegrassですが、これをNEW GRASS REVIVAL風の豪快なサウンドに仕上げ、かつ、Instrumentationでは繊細なマンドリンさばきにビルモンローの香りをほのかに載せている、バンジョーのコートニージョンソンも頑張ってサムの要求するサウンドに応えています。いまはスリムなジョンコーワンですが、当時は小錦のような体型で咆えまくっておりました。

冒頭にも記したように、このアルバムがリリースされたのが24年前、すごい昔なのですが、このサウンド、今でも新鮮だと思うのは、私だけ?錯覚?年取ったせい?当時、「NEW GRASS REVIVALはBluegrassじゃない、ロックだよ」なんておっしゃる方も結構居られましたが、もっともその人たちもNEW GRASS REVIVALを否定的に言われているわけでは決してなくて、大いに愛するのだけれども、ジャンルとしてちょこっと違うのかなあというつもりだったようです。しかし、ジャンルなんてどうでも良い、いい加減なもので、24年前、ある意味でジェントルマンはクラシカルなBluegrassのジャンルではないという見方もあったけど、わたしにはよく理解できなかったし、いまNEW GRASS REVIVALを振り返るとき、私にとっては、これぞバリバリのBluegrassと言えるのです。つまり私の中ではビルモンローと同じ仲間なのです(というわけで次回、ビルモンローで)。

余談ばかりですみませんが、24年前のNEW GRASS REVIVALのコンサートも素晴らしかったが、打上げは打上げで堪らない楽しいひとときでした。当時、デブのジョンコーワンは不良だったので、一人、夜のススキノに消えて行きましたが、あとの3人は紳士、良い奴。ヤマハセンター1階の特設打上げ会場、ボーカルとインスト各1本ずつのマイク、もっとも初期の北大ブル研所有のちっちゃいぼろいPAのみ。最初は当然主催者側が演奏、私も前川さんと出てジェントルマンのNIGHT WALKかなんかやったような気がします。当時、梅原夫妻(まだ結婚されていなかったが)と馬渡さんのバンド、BluegrassTimeがとにかく素晴らしいバンドで、サムたちもこれで一気にのってしまいました。その後はNEW GRASS REVIVALの3人でかなりの時間、みんなが良く知っているBluegrassの演奏を見せてくれました。Uncle Pennだったでしょうか、ボーカルマイクが1本なので、3人の頬と頬がほとんど付くぐらいまで顔を寄せ、歌っておりました。たとえ打上げのような席でも、限りなく良い演奏を聞かせる努力が感じられ、ここでも大喝采・・・もう24年経つのですかねえ。


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