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Bluegrass駅伝的アルバムレビュー「Bluegrass Times」
 
駅伝的アルバムレビュー「BluegrassTimes」 / 橋本幸 -guitar-

走れコータロー / ソルティー・シュガー 
1.
 これから始まる大レース ひしめきあっていななくは
 天下のサラブレッド4歳馬 今日はダービーめでたいな
 ※走れ走れコータロー 本命穴馬かきわけて
  走れ走れコータロー 追い付け追い越せ引っこ抜け
2.
 スタートダッシュで出遅れる どこまで行ってもはなされる
 ここでお前が負けたなら おいらの生活ままならぬ

 ※繰り返し〜間奏

   エーこの度公営ギャンブルをどのように廃止するかと、いう問題につきまして〜(略)

3.
 ところが奇跡か神がかり 居並ぶ名馬をごぼう抜き
 いつしかトップに躍り出て ついてに騎手まで振り落とす
 (※繰り返し)

ザ・ソルティシュガー/ビクター・オーケストラ
池田謙吉 : 作詩作曲、編曲
前田信夫 : 補作
Label/No etc. VICTOR SV-2060
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備 考 

この曲は日本で唯一、ブルーグラスのフルバンドで演奏されたビッグヒット歌謡。ブルーグラスを愛する方ならずとも、是非知っておきたい1曲です。
唯一のヒット曲のジャケットがこれなので、一瞬寂しい気持ちになるブルーグラス・フリークもいらっしゃるかも知れませんが、気を落とすことはありません。早速そのサウンドをチェックしてみましょう。

*

キックオフはバンジョーです。「カンカンカンカンカカカカカン」です。
これはジャム時にも強引に導入可能ですので、バンジョー弾きは確実にマスターすべき重要フレーズと言えましょう。

続いて、今まさに馬群が最終コーナーを曲がってきたかのごとき強烈なギターサウンドが接近してきました。
このギターは 「ベース音&ストローク」というブルーグラス・ギターの秩序とは全く無縁な、体力が続く限りストロークし続けるという テレビチャンピオンのようなギターなのです。

歌に続くコーラスは3声ではなく2声で、ブルーグラスっぽさには若干欠けますが、 「本命穴馬、かき分けてー」の「てー」のテナー(男声高音)は正にハイロンサム!
ビル・モンローの影響が強くうかがえると、一応言っておきましょう。

間奏はマンドリンのソロから入りますが、これも他で全く聞いたことのない独創的スタイルですので、マンドリン弾きは今すぐCD屋にGOです!
そしてこのマンドリンにドブロのソロが続きますが、これまた実に味わい深く、タイミング、音の伸びともに申し分ないのです。

*

さて、ところでこうして登場する楽器の数々は、自分が後年「ブルーグラス」という音楽に実際に接したから分かることであって、初めてこの曲を聞いたときは、 一体何の楽器なのか、私には全く理解できませんでした。
というより「アコースティック楽器」と称されるものはギターとウクレレくらいしか知らなかった頃ですから、当時の私は、マンドリンのソロはギターのハイポジションにカポを付け、ドブロのソロは スライドギターで、それぞれ(大真面目に)練習していたのです。


それにしても、こうして曲全体を一望しますと、冒頭のテレビチャンピオンギターが異彩を放っている以外は どこをどう取ってもブルーグラス・サウンドなのですが、例えば「これから始まる大レース」という歌い出しに対して演歌の常套楽器である「カー!」という打撃音で応えるなど、私達も見習うべきアレンジが随所に施されています。

現在ブルーグラスのバンドを組まれている方々は、これらの手法の導入についても大至急御検討下さい。



Kentucky Colonels / Appalachian Swing
A1. Clinch Mountain Back-step
A2. Nine Pound Hammer
A3. Listen To The Mocking Bird
A4. Wild Bill Jones
A5. Billy In The Low Ground
A6. Lee Highway
A7. That's What You Get For Loving Me
B1. I Am A Pigrim
B2. Prisoner's Song
B3. Sally Goodin
B4. The Ballad Of Farmer Brown
B5. Faded Love
B6. John Henrey
B7. Flat Fork
Clarence White : Guitar
Roland White : Mandolin
Billy Ray Lathum : Banjo
Roger Bush : Bass
Bobby Slone : Fiddle
LeRoy Mack : Dobro
Label/No etc. 左)LP : Liberty LN-10185 右)LP : UAS-29514
備 考  


昔、「クラレンス・ホワイトのギター」という本がありました。
私がそれを購入したのは高校時代で、当時 「Muleskinner」を唯一聞いたことがあったくらい、その他のカーネルズものなど聴いたこともない頃でした。

そもそも楽譜・教則本なんてものは何回繰り返し見ようとも実際に音楽を聞いてみなければ結局何も分からないわけですが、 まして楽譜の読めない私なんかにとってはただの不思議文書です。
ただそうは言いつつも、その頃の北海道でブルーグラスのような音楽を「実際に聞いてみる」など望むべくもなく、 またこうした教則本には楽譜のみならず様々な周辺情報が掲載されていて、結局こうした本も大変有意義です。
特にラス・バレンバーグさんというこれまた私の大好きなギタリストが執筆しているこの本は、内容が細かく実に充実しており、実際の音を想像しながら 必死に学習したものでした。

下はこの「クラレンス・ホワイトのギター」における「Appalacian Swing」に関する記述です(下線は筆者)。
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シンコペイションやジャズっぽいフレーズ、そしてより入念なバックアップ・スタイルを含む多くは、1964年に録音されたアルバム<Appalacian Swing>の中で 聴くことができます。このアルバムの枚数は限られたものでしたが、耳にしたあらゆるブルーグラス・ギタリストはぶったまげてしまったものです。
クラレンスは最高の状態にあり、あらゆる演奏はエクサイティングかつ一貫していて、疑いもなく彼自身のものでした。不幸なことに、このアルバムは数年間しか 出回りませんでした。1973年に再発売されたのですが、これもまた廃盤になってしまいました。
このアルバムを手に入れるための最善の努力をするべきです。
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意訳と直訳が入り交じって非常に不気味な文章になっていますが、こうした本にはよくあることです。
ともかく私は言われたとおり、このアルバムを手に入れるため最善の努力をしました。しかし実際入手は大変困難で、私が手に入れたのも確か大学に入ってからだった ように記憶しています。

なお、上に揚げた2枚のジャケットのうち、左のLiverty盤は「10 Great Instrumentals」とジャケット右上にあるとおりインストだけの10曲ですが、右のUAS盤はこれに「A6.LeeHighway」「A7. That's What You Get For Loving Me」「B4.The Ballad Of Farmer Brown」「B6. John Henrey」が加えられています。

でアルバム・レビューの方はどうなんだと言いますと、実は上記のような経緯もあり、私の場合クラレンスさんのギターを学習するための1枚という感覚がすり込まれてしまっていて、アルバム自体の評価ができません。
ただ、クラレンスさんのフレーズがちりばめられているという魅力をさて置くと、むしろ地味なアルバムという評価になるような気もします。
クラレンスさんのギター・プレイについては、そのフレーズを血眼になって拾った涙ぐましいほど地味な研究の成果を「5ch=クラレンス・ホワイトさんのギター」の方に 掲載しておりますで、こちらを御覧下さい。

*

ところで私はこの「クラレンス・ホワイトのギター」をいつの間にか紛失しました。それが残念で、 東京に来てからは神田の古本屋までも結構廻ったりしたのですが、さすがになかなか見つかりません。

ところがある年、札幌フェスの会場で、不要になったCDや雑誌などをかき集めて何やら商売をしている怪しい一角が。
覗きに行くと、店主は北海道で最も素晴らしいブルーグラス・バンドの1つ「ストーブ」の中原氏、そして陳列された商品の中に、この本が500円という破格値で 売られているではありませんか!
人目に付いた途端あっという間に売れてしまうはずの一品ですが、会場から離れた茂みの中という怪しすぎる場所に出店しており、 近づく人が他にほとんどいなかったことが幸いしました。
こうして私は再びこの書を所有するに至ったのです。



Muleskinner
A1. Mule Skinner Blues
A2. Blue And Lonesome
A3. Footprints In The Snow
A4. Dark Hollow
A5. Whitehouse Blues
A6. Opus 57 In G Minor
B1. Runways Of The Moon
B2. Roanoke
B3. Rain And Snow
B4. Soldier's Joy
B5. Blue Mule
Peter Rowan : Guitar,Vocal
David Grisman : Mandolin,Vocal
Bill Kieth : Banjo
Richard Greene : Violin,Vocals
Clarence White : Guitar,Vocals
Label/No etc. LP : Edsel Records ED-219
備 考  

木を見て森を見る人もいれば、木だけを見てほとんど森のことが分かったような気になる困った人もいるものです。 たとえば私。

そういう私の性格に鑑みれば、ブルーグラスの音として最初に触れたのがこのレコードという事実は、私のその後のブルーグラス観に深刻な影響を与えました。
これを聞いたのは高校1年生の時でしたが、ものの本によるとブルーグラスにおける歴史的な名盤とのこと。フンフンなるほど、どうやらブルーグラスのことが分かったぞ。
以来大学に入るまでの間、私はこのレコードがブルーグラスの正面玄関だと思っていました。
この頃はまだビル・モンローさんも、フラット&スクラッグスさんも知らなかったのです。

ブルーグラスをやりたい!そしてクラレンスさんのように弾きたい!そんな思いで大学入学直後に結成したのが「ケンタッキー・カーネル・サンダース」というバンドで、生意気な1年生に付き合ってくれた諸先輩には心から感謝していますが、バンジョー抜きの3人のバンドはスリリングで楽しかった!
このアルバムは、私がそういう方向に歩いてしまうきっかけになった、とても大事な1枚です。
今回はこのアルバムの魅力を細部にわたり探ってみましょう。

まずはこのジャケット。
ブルーグラスのレコードはどうして皆こうなのでしょう。

たとえば自分が突然の幸運に巡り会い、レコードデビューをすることになったことを想像してみましょう。
スタジオでの録音は緊張したものの、歌も楽器もどうにか上手く行きました。ミキシングも概ねOKで、これは自分たちの魅力がよく表れた1枚になりそうです。
1stアルバムなのにこんなに何もかも上手くいって良いんでしょうか。夢なら醒めないで欲しいですね。

そこへ突然マネージャーが入ってきて「今度のジャケット、これで行くから」と、死にかけたような表情をした馬の絵を手渡されたら。
この絵が一体自分たちの何を表しているというのでしょう・・・。夢なら醒めて欲しいですね。

当時の私は、このレコードは一体なぜこんなジャケットなんだろうとずいぶん不思議に思ったものですが、数年もすれば、ブルーグラスはこうした訳のわからないジャケットが基本なんだということを理解できるようになりました。



さてこの痩せた馬のジャケットの裏返して見ますと、そこにはもう一瞬目が眩んでしまうほど魅力的な5人のミュージシャンが描かれています。
上段左からボーカルとギターのピーター・ローワン、マンドリンのデビット・グリスマン。下段左からバンジョーのビル・キース、フィドルのリチャード・グリーン、そしてギターのクラレンス・ホワイトです。リズムセクションの方は「Other Musician」という扱いになっており、まあGLAYにおけるドラムのヒトのようなものと言っておきましょう。

ものの本によると、彼らは1973年、とあるブルーグラスのテレビ番組のために集められたミュージシャンで、番組自体は本来ビル・モンローと彼らによるセッションを放映するという企画だったところ、当日ビルモンの乗ったバスが事故にあい、急きょ彼らだけで演奏することになったとのこと。主賓の欠席にもかかわらず、演奏はウケにウケたようですが、それはこの5人の顔ぶれを見れば何の不思議もありませんね。
演奏の好評を受け、74年に製作されたのがこのレコードとのこと。

内容は実にまとまりのない、しかし聞き所が随所に散らばった1枚になっています。強引に例えるとビートルズの「ホワイト・アルバム」みたいな感じ。あれは才能のある方々が好き勝手に曲を持ち寄るとこんな仕上がりになるのか、と非常に興味の尽きない1枚ですが、一方であれを聞く時はいつも他のアルバムとは違う楽しさを期待してしまいます。
*

それでは針を下ろしてみましょう。・・・ボツッ・・・

テケケケケケケケケケケケケケケケ・・・。
何事かというテレキャスターの堅いエレキの単音が飛び出してきました。
なんだこの曲は? そう思った直後の5小節目、大変珍しい「エレキギターのGラン」をきっかけに全員が一斉に飛び込んできました。
ウォーミングアップなしで既に全開。
ピーター・ローワンさんは水を得たおやじのように、シャウトだがヨーデルだか良くわからないオリジナル唱法で、ガンガン歌っています。
このおやじに負けじと凄いのがリチャード・グリーンさん。自信と勢いとアイデアに満ち溢れており、変態的フレーズを連発しています。
こんなフィドル弾きがいるとバンドも崩壊寸前でさぞかしスリリングだろうなと思ったものですが、その数年後、私が広吉直樹さんという全く同じノリのフィドル弾きに出会うことになろうとは、この頃はまだ知る由もありません。

それにしても倒れそうになるくらいカッコ良いのがクラレンス・ホワイトさんのエレキギターで、3分余りに渡って延々と弾き続けるバッキングは、時折4th、7th、9thといった音を織り交ぜるけなのに、タイミングがカッコ良すぎてクラクラしてきます。

このように彼らは1曲目からやりたい放題大騒ぎした挙げ句に、「フェイド・アウト」という非ブルーグラス的手法で去って行きました。
ふうー。これは1曲目から大変なアルバムです。


2曲目は Blue&Lonesome。
ミディアム・テンポのブルーグラスで、これでやっと少し落ち着けそうですね。
ところがリチャード・グリーンさんの様子がおかしいのです。
どうやら先ほどの興奮状態から脱していないのか、1曲目に続いて変態的フレーズを連発しています。
ちょうど高速道路のインターを降りて一般道路に入ったのに、スピード感が麻痺して100kmくらいのスピードで走ってしまう状況。それが彼なのですね。

彼の状態に不安を覚えたのか、他の4人はこの後「Footprints in the Snow」「Dark Holoow」「Whitehouse Blues」 と計3曲の普通のブルーグラスを連続して演奏することで、治療を試みたようです。
その甲斐あってどうやらリチャード・グリーンさんの興奮状態も治まりました。

と思ったのも束の間、今度はデビット・グリスマンさんが、只今売り出し中の「Dawg」なるジャンルの曲を持ち込んで、既にそのイントロをシャカシャカと奏で始めているではありませんか。
幸いここは単弦奏法の得意なビル・キースさんの賛同が得られたのか、無事 「Opus 57 in G Minor」 が始まりました。
思えば後年トニー・ライスさんによってその多くが弾かれることになるDawgをクラレンスさんが演奏している貴重な1曲です。何だか軽々と弾いている感がありますね。


このA面のバラバラさ加減は盤を裏返してB面に入っても変わることなく、「Runaway of the Moon」〜「Roanoke」〜「Rain&Snow」 と続いて行きます。


そんな中で始まるクラレンスさんの「Soldier's Joy」。
私はこの時、はじめてブルーグラス・スタイルのギター・インストというものを聞きました。本当に驚きました。
もちろんすぐコピーして何度も練習しました。それはもう100回や200回なんていう話ではありません。
そして未だにクラレンスさんのような柔らかく滑らかな音では決して弾けないのです。


最後の曲は 「Blue Mule」。
この曲はこれまでの10曲に比べて大変まとまりが良く、あらかじめ整理された役割分担の中で1人1人が抜群のパフォーマンスをしています。
特にリチャード・グリーンさんのプレイは印象的で、エレキ・バイオリンを使用し、「通奏低音」ならぬ「通奏高音」のようなプレイをベースに、曲をドラマチックに展開させて行きます。
またクラレンスさんの16小節のソロは、切り込んでくるタイミングが素晴らしい上、生前彼が弾いていたフレーズが散りばめられており、この何ヶ月後に亡くなってしまうことを考えると 何か感慨深いものがあります。

この Blue Mule は、終盤、まるで1曲目のミュール・スキナー・ブルースを再現しているかのように、全員が思い思いに弾きまくってフェイド・アウトして行きます。
あー、音が小さくなっていく・・・。楽しかった時間も終わりです。

でも良く聞いてみて下さい。この曲は正確にはフェイドアウトで終わらず、音を絞りきる直前に、クラレンスさんのジャジーな軽いストロークで終わっているのが聞こえるはずです。
コード名はG69=ジー・シックス・ナインス。
このなまめかしい響きによって、なまめかしいMuleslinner の世界が終わるのです。