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Bluegrass駅伝的アルバムレビュー「Bluegrass Times」
 
駅伝的アルバムレビュー「BluegrassTimes」 / 菅原昭 -guitar-

Happy & Artie Traum/ "Happy & Artie Traum" & "Double-Back"
"Happy and Artie Traum"
1. Rabbits Luck
2. Farmers Almanac
3. Going Down to See Bessie
4. Mama, It's a Long Ride Home
5. Misty Dreams
6. State Line
7. Uncle Jedd Say
8. The hungry Dogs of New Mexico
9. Brave Wolf
10. Trails of Jonathan
11. Golden Bird

"Double-Back"
12. Svavengers
13. Confession
14. Jacksboro
15. The Ferryman
16. The Seagull
17. Handful of Love
18. Cross Examinator
19. Mister Movie Man
20. Brother Thomas
21. Love Song to a Girl in an Old Photograph
Happy and Artie Traum Acoustic guitars and vocals : Acoustic guitars and vocals
"Happy and Artie Traum"
Michael Esposito : bass / Eric kaz : harmonica, piano, organ / Jerry Carrigan : drums / Buddy Spickard : fiddle / Bobby Thompson : dobro / Weldon Myruck : steel / Wayne Butler : sax / Ken Lauber : piano (8, 10) / Ken Battrey : drums (4, 6) / Ferrell Morris : percussion (9) / vocals : Mother Earth Chorus & Tracy Nelson (7)
"Double-back"
Brad Campbell : bass / Roy Markowit: drums / Eric Kaz: piano, harp / Welden Myrick : pedal / steel / Billy Sanford : electric guitar / Clark Pierson : drums / Amos Garret : side guitar / Billy Mundi : drums, percussion / Buddy Spicher : fiddle, cello, violins, arranger / Happy Traum : banjo, melodica / Andy McMahon : piano, organ / Tim Drummond : bass / Jerry Carrigan: drums / Tracy Nelson : vocal / Bill Keith : pedal steel
Label/No etc. VSCD-534 (東芝EMI)
お買い求め情報 店頭で遭遇するのは困難。取り寄せが無難でしょう。 CDNOW等から逆輸入盤を購入することも可能らしい。
備 考 その他、情報等

Happy & Artie Traum / "Happy & Artie Traum" & "Double-Back"

 Happy Traumの名に覚えのある人は多いはずです。そう、全音の「ブルーグラス ギター」なる教則本を書いたあの人であります。私もあれで勉強しました。受験 直前、中学3年の冬のことです。ナターシャに感化された友人とバンドをやろう という話になったのがきっかけでした。カーターファミリーピッキングからニュー グラスにいたるまで、歴史を懇切丁寧に解説してくれている割りにはポイントを きれいに外しており、あれで道を踏み外した人も多いのではないかと思われます。 確かに「ブルーグラスバックアップギター」なる教則本を出してもセールスは望 めないでしょうが、あのバックアップ軽視は今となってはうなずけないものがあ ります。しかし当時はアリス等のニューミュージック全盛時代、アコギでソロと いうのは、とても新しい世界に見えたものです。

 さてさて、件の教則本の巻末には、今では見ることもないソノシートがついて いて、その最後に非常に印象深い一曲が入っています。曲名は"Handful of Love"。 くどい上昇フレーズとシンコペーションが印象的なソロが2ブレーク入っており ました。特に後のブレークの方は、かなり無理矢理なチョーキングから、そのま まフェードアウトになだれこむという巧妙な構成になっています。編成は生ギター 2本とベース、コーラスも二声というすっきりしたもので、断じてブルーグラス ではありません。

 この"Handful of Love"は、Happy Traumが弟のArtieと組んだデュオ、Happy & ArtieがCapitolに残した二枚のうちの"Double-Back"に収録されています。なま じメジャーレーベルから出してしまったがために早々に廃盤の憂き目に遭ってし まった隠れ名盤だそうで 一枚目の"Happy and Artie Traum"とのカップリングと して、 1994年日本で再発・ CD化されたものです。60年代のグリニッジビレッジ →ウッドストックのフォークムーブメントの流れの中でそれなりに重要な役割を 果たした Traum兄弟が、南部っぽいフレーバーで作ったアルバムだと思って下さ い。バディ・スパイカーやビル・キースといったなじみの顔も混じってはいます が、ブルーグラスっぽさは極めて薄い作品で、はっきり言うと一枚聞きとおすの はかなりしんどい代物です。わたしがこれを購入したのは1997年の春ですが、1980 年から捜し求めてきたアルバムゆえ、目の当たりにした感動は例えようもないも のでした。が、一方でアルバム全体の作りがこういうものであったということで、 落胆もひとしおでした。個人的には、 Rounderから出た次のアルバム "Hard Times in the Country"の方がお勧めです。

 それでもなお、 "Handful of Love"だけは聞く価値があると思います。意外な ことに、あの教則本のポリシーとは反対に、この曲でのバックアップは相当面白 い。曲自体は、ブルーグラスの編成で演奏されてもおかしくないコード進行・リ ズムなのですが、鍵はギター二本の編成であるという点にあるようです。ブルー グラス編成であれば、ギターの役割はある程度制約される部分があるわけですが、 まっさらなブルーグラスっぽい曲をもってきて「さあ、アコギ二本で、アコギ本 来の可能性を目一杯使って、バックアップを組み立ててごらん」と言われたら、 こういう作りもありかな?といった感じでしょうか。(件のソノシートのテイク はこの曲の後半部をカットして収録したものであり、やはりフェードアウトで終 わっていました)

 以上、個人的な話ばかりで読む人にとっては何の役にも立たない話でしょう。 しかし、「音楽を聴く、演る」という行為は、少なくともわたしにとっては極め て個人的なコトであり、それぞれの時期の音楽仲間・なにかを共有できた人たち の記憶と切り離すことはできません。このレビューを書かせてもらうきっかけに なったのは、同窓会で久々に会ったハシモト氏と音楽の話をしていた時に、「そ ういやこれ買ったよ」と言ってしまったことです。わたしにとっての真のブルー グラス体験は東京での学生時代ですが、その前段階としての高校時代に、この手 の話題が通じる人々が周りにいたことはラッキーなことでした。そして、20年後 の世紀末に、こうしてハシモト氏のページに寄稿しているのだから、世の中面白 いですよね。


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Jackson Browne / Saturate Before Using (1972)
1. Jamaica say you will
2. A Child in these hills
3. Song from Adam
4. Doctor my eyes
5. From silver lake
6. Something fine
7. Under the falling sky
8. Looking into you
9. Rock me on the warer
10. My opening farewell
JB, Clarence White on "Jamica" : Acoustic guitars
JB, Craig Doerge, David Jackson : Piano
Albert Lee, Jesse Davis : Electric guitars
Jim Gordon : Organ
sneaky Pete : Pedal Steel
Jim Fadden : Mouth Harp
David Cambell : Viola
Lean Kunkel : Counter Song on "Fom Silver Lake"
David Crosby : Harmonies
Label/No etc.  
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Jackson Browne / Saturate Before Using

70年代のシンガー・ソングライターを代表するジャクソン・ブラウン(以下JB) の曲は、たとえば二枚目に収録されている"These days"がNGRにカバーされて いたりと、ニューグラス(死語?)趣味の人には(そうとは知らなくても)耳 に入っているはずです。 今回は、そんなJBのデビューアルバムの冒頭に入って いる"Jamaica say you will"に絞って紹介したいと思います。
この曲はByrds やSeldom Sceneにもカバーされていますが、やはりJBのオリジナルテイクがス ガワラ的には最高傑作です。この曲は基本的にJBのピアノ弾き語りの曲です。 ピアノ一台のイントロから、特に凝ったコードワークというわけでもないのに、 ぐぐっと引き付けられます。歌が上手いと言うわけではまったくないJBですが、 歌がはじまるとまたいっそう引き付けられていきます。JBの作風というのは80 年代になって大きく変っていきましたが、この曲はまさに70年代のJBを象徴す るかのような曲想です。それをデビュー盤の一曲目に持って来てしまえるとい うところが、天才ソングライターの天才たる由縁なのでしょう。

さて、私がJBにはまり出したのは、大学受験直前の1982年の暮れのことでした。
当時ようやく札幌でも放映がはじまった"Best Hit USA"で、JBの"Somebody's Baby"が散々かかっていました。「もたもたしてると、あの娘は誰かのものに なっちまうぜ〜〜〜」とかいう、どうしようもなく軽薄な歌詞にそそのかされ、 時期も忘れて当時気になっていた女の子に言い寄って玉砕していたことが思い 出されます。ところが当時は、そこから70年代のJBの作品に遡って聞いてみる と、どうも暗くてのめりこめなかったのです。そんな私にも、JBの曲が、ある 時期を境にふっとしみこんでくるようになりました。とても悲しい出来事(ハ シモト氏にも忘れられない出来事だったろう)があった大学一年の夏休みが終 わり、東京に戻った頃からです。何かが自分の中で変ったのだと、思い知らさ れたものです。わたしらの世代の東京の学生には、JBについて語り合える友な どほとんどいませんでした。唯一の例外が、当時青山学院でバンジョーを弾い ていた天野幹君です。一時期神田のユニオンのブルーグラス担当もやっていた 筈なので、顔だけは知っているという方も多いかもしれません。彼とは西海岸 趣味で意気投合し、学生の間は一緒にバンドをやっていました。就職してから は音信も途絶えていました。私がアメリカに出稼ぎにいく直前にユニオンに 彼を訪ねて数分の短い会話を交わしたのが、彼との最後の会話になりました。 彼が逝ってしまったことを知ったのは、三年も経ってからのことです。 「そんなんで友達と言えるのか?」と疑問に思われる方も多いかとは思います が、彼は私のブルーグラス時代において一番話が合った人だったことに間違い はありません。

さて、話を"Jamica say you will"へと戻しましょう。この曲が気にいって、 何十回と聞いていると、あるとき、三番からかぶってくる裏でかすかに聞こえ ているアコースティックギターのバッキングがふっと気になりだすのです。ピ アノ・ベース・ドラムで十分厚い音の中、ふっと聞こえてくるアルペジオは、 明らかにフラットピックでつま弾かれたものであり、「クロスピッキング」と いう単語がふっと頭をよぎります。気になりだすと、いろいろな発見があります。 何やらベースランのような音も聞こえます。全部ダウンでたたきつけているよ うです。ちょっと弦がびびり気味で、特に3弦開放のGの音で顕著です。妙にシ ンコペートしたところも耳につきます。これはあの人ではないか?そう思って 聞いてみると、決め手がありました。なんだか、二音同時にピックではなく指 で引っかけているような音が聞こえるフレーズがあります。この奏法は、 Muleskinnerの"Dark Hollow"の中でも聞かれたやつです。

そうなのです。たったワンコーラス分ですが、クラレンスがこれを弾いている んです。クラレンスといえば「アパラチアン・スウィング」なのかも知れませ んが、わたしは70年代のクラレンスが好き。Mule skinnerもWhite bothersも いいけれど、この曲でのバッキングが個人的には一番好きなのです。原曲もよ く、JBも好き、クラレンスも好きと三拍子揃ってしまうと、もうこれ以外あり ません。上述のように、悲しいことまでも同時に思い出してしまう曲ではあり ますが、特にご紹介させていただきました。

次回は、Russ Barenbergの"Cowboy Calipso"を予約!


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