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Bluegrass駅伝的アルバムレビュー「Bluegrass Times」
 
駅伝的アルバムレビュー「BluegrassTimes」 / 竹内裕彦 -mandolin-

419 West Main / Red Cravens & The Bray Brothers(1972)
1. WHOW Introduction
2. This Train
3. Glory In the Meeting House(Inst)
4. Bluegrass Breakdown(Inst)
5. Cora Is Gone
6. East Virginia Blues
7. Jingle Bell Breakdown(Inst)
8. Blue Eyed Darling
9. Little Darling Pal Of Mine
10. Pass Me By
11. Cumberland Gap(Inst)
12. I Never Shall Marry
13. Lost Love
14. Sally Goodin(Inst)
15. Gentle Blues(Inst)
16. Rawhide(Inst)
17. Angel With The Golden Hair
18. Buckin' Mule(Inst)
19. Our Darling's Gone
20. Hazel Dell(Inst)
Red Cravens : Tenor Vocals, Guitar
Harley Bray : Baritone Vocals, Banjo
Francis Bray : Bass
Nate Bray : Lead Vocals, Mandolin
John Hartford : Fiddle
Produced by John Hartford :
Label/No etc. Rounder CD #0015
購入情報 オリジナルはLP盤で入手困難ですが、1997年にCD化されておりこちらはRounder社のサイトにてオンラインで注文可(http://www.rounder.com/)。大都市圏にお住いの方であれば、DISKUNIONまたはTOWERRECORD等、大手レコードチェーン店の「COUNTRY/BLUEGRASS」コーナーでも入手可能でしょう。
備 考 「癒し」系のブルーグラスです。疲れた時、落ち込んでいる時に聴くと、最大の効力を発揮します

419 West Main / Red Cravens & The Bray Brothers(1972)

ご挨拶
みなさん今日は。竹内と申します。
今日私がご紹介しようと思うのは、ブルーグラスのいわゆる「大作」とか「名作」とは必ずしも言えないかも 知れません。しかしブルーグラス愛好者の間では「隠れた名盤」と呼ばれて久しい1枚ですのでご紹介したいと思います。
へえこんなのもあるの?という感じでお読みいただければ幸いです。



「Red CravensとBray3兄弟」は、活動期間は1950年代後半〜1960年代初頭の一時期だけで、 現存するアルバムはわずか2枚という、ブルーグラスというマイナーな音楽ジャンルの中 でもさらに超マイナーな存在と言って良いと思われる。本作はその2枚中の1枚目であり、 1960年頃自宅アパートで行なわれた自家製録音テープを、彼らの親友John Hartfordが後になって編集したも のである。(タイトルの「419 West Main」というのは彼らの住んでいたアパートの住所である)

バンドの紹介
 このバンド、メンバーの中では一応Red Cravensがリーダー格なのであろうが、特に彼が際立って存在感があるようには感じられない。 その他のメンバーの中にも、バンドを引っ張るスター的な人物がいるわけではない。メンバー各自は、練習でやっている通りにただただ 地道にその役割を果たしているという感じである。 彼らは相当に若いバンドであるが、(ライナーノーツを見た限りでは、録音当時はメンバーの大半がまだ20歳前後のようである) 若手にありがちな、自分の歌で目立ってやろうとか、あるいは何かすごいフレーズを弾いて一発かましてやろう的な気負いは、 微塵も感じられない。 チームプレーに徹している。自分の番が周ってきたら黙々とこなし、一区切りついたら次の人にバトンタッチ、という事の繰り返しで、 その結果、非常に確実かつ均整のとれた演奏となっている。 ある意味平凡でつまらない演奏と感じられる方もいるかもしれない。
しかし、その一見しての平凡さの下から、繊細さ・センスの良さが香ってくるバンドなのである。

歌・コーラスについて
まず歌であるが、Nate Brayのリードボーカルは堅実そのものといった感じである。それを支えるコーラス陣は、Red CravensのテナーとHarley Brayのバリトンが お互いに「ハモる」というよりは「囁き合う」という感じのコーラスを取っている。そこには「凄さ」とか「上手さ」というものはさほど感じられない。 (本当はすごく上手いのだろうが)しかし、3人とも決して自己主張しすぎず、互いに合わせようと徹する姿勢が実に良く伝わってきており、あたたか く一体感あるコーラスである。この、繊細さ・控え目さ・ひ弱さ・チョット古めかしさ+一体感を併せ持った彼らのコーラスが私は大好きである。

 特にアルバム中盤の6.East Virginia Blues、8.Blue Eyed Darling、10.Pass Me By、12.I Never Shall Marryでのコーラスは聴き応え抜群である。(私事だが、12は私が北大ブルーグラス研究会在籍中に強引にバンドで取り上げた曲であるが、以後同研究会でこのアルバムの曲を取り上げたバン ドはないのでは?)

楽器について
 さて、コーラスだけではなく、楽器ソロも見逃せない。
マンドリン(Nate Bray)・バンジョー(Harley Bray)といった各楽器ソロは、特に奇抜なことはやっていないのだが、 あくまでボーカルを基本に、そのメロディラインや雰囲気を大事にしたソロを弾いている。あまり目立ちすぎることもなく、かといって印 象ゼロと言うわけでもなく、曲調に応じて非常にそつなくソロを取っている、という印象である。とにかくこの兄弟のセンスの良さは抜群 である。特にNate Brayのマンドリンは音の良さといい、ピッキングの丁寧さといい、どれを取っても私が個人的に最も憧れるマンドリン 弾きの一人である。

 インスト関係も充実している(本アルバム20曲中約半数がインストである)。
7.Jingle Bell Breakdownに代表されるオリジナルインストは聞いてて楽しい。 4.Bluegrass Breakdown、16.Rawhideなどはモンローのレコードの完全コピーと思われるが、1日20時間(!)練習したという彼らの徹底した 修行振りが伺える。 また、本アルバムには、11.Cumberland Gapや20.Hazel Dellのようにどちらかというと「ガンガンやる」系のインスト曲も数曲含まれているが、 彼らは彼ららしく、そういう曲でもあくまで控え目に、そつなくこなしており(もちろんそれなりに熱く弾いてはいる)、 そこがまた素晴らしいと思う。

結言
以上述べてきたように、「Red CravenとBray3兄弟」は数多くの点で、素晴らしい演奏を聞かせてくれるバンドである。 一口にブルーグラスと言っても、勢いの良いもの・ゆったりめのもの等々、実に様々であり、それを聞く側の感じ方も 様々である。彼らの演奏に対する私の感じ方は、彼らの音が私の胸の中に染み入るようにやさしく入り込んで、心の凝りをほぐしてくれる、というものである 。これをちょっと大袈裟に言えば、「癒し」と呼んでも良いのかもしれない。そういうわけで私は、彼ら及び、彼らのような演奏をする ブルーグラスバンドについて、上の「備考」欄に書いたごとく勝手に「癒し系ブルーグラス」と名付け、仕事等で心理的に疲れてしまった際の 回復剤として活用しているのである。

  最後に、このアルバムを既にお持ちの方、あるいはこれから手に入れたいと思われている方へ。このCDは夜に聴くことをお勧めします。 特に金曜日の会社帰り、これから週末だというときに時間を気にせず心行くまで聴くようにすると特に効果的だと思います。 RedとBray3兄弟のコーラスが、Nateのマンドリンが、一週間の仕事で疲れた貴方の心を癒してくれることでしょう。


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Bluegrass Masters / Various Artists (1965&66 Live At "Newport Folk Festival")
Bill Monroe & His Bluegrass Boys
1. Introduction(Bill Monroe)
2. Walls of Time
3. Grey Eagle
4. Cotton-Eyed Joe
5. Shady Grove
6. Blue Yodel#4
7. Molly and Tenbrooks
Jim & Jesse & The Virginia Boys
8. Introduction
9. Dueling Banjos
10. Alabam
11. Memphis,Tennessee
12. Air Mail Special
13. Better Times A-Coming
14. Variations on Bill Cheatham
15. The Grave In The Valley
16. Sugarfoot Rag
Lester Flatt & Earl Scruggs & The Foggy Mountain Boys
17. Introduction
18. Orange Blossom Special
19. Maiden's Prayer
20. I Wonder If You're Lonesome Too
21. Foggy Mountain Chimes
22. Wabash Cannonball
23. When The Saints Go Marching In
24. The Ballad Of Jed Clampett
(Musican多数につき、特にFeatureされているMusicanのみの紹介とさせていただきます)
Bill Monroe & The Bluegrass Boys
Bill Monroe : Vocals, Mandolin/ Peter Rowan : Vocals, Guitar/ Tex Logan : Vocals, Fiddle
Jim & Jesse & The Virginia Boys
Jim McReynolds : Vocals, Guitar/ Jesse McReynolds : Vocals, Mandolin/ Bobby Thompson : Banjo
Lester Flatt & Earl Scruggs & The Foggy Mountain Boys
Lester Flatt : Vocals, Guitar/ Earl Scruggs : Vocals, Banjo/ Josh Graves : Vocals, Dobro
Label/No etc. VANGUARD 77012-2
お買い求め情報 CD NOWにてオンラインで注文可(http://www.cdnow.co.jp/)。 大都市圏にお住いの方であれば、DISK UNIONまたはTOWER RECORDS等、大手レコードチェーン店の 「COUNTRY/BLUEGRASS」コーナーでも入手可能でしょう。
備 考 音源は1965&1966年のライブ録音、CD発売は1996年


自己紹介
前回このコーナーに書かせて頂いたときに自己紹介をしてなかったので、まずはそこから 始めたいと思います。
北大ブルーグラス研究会に1988年入部し、卒業後は4年の東京勤務を経て、 現在は仙台に住んでいる竹内という者です。担当楽器はマンドリンです。

私が北大ブル研に入部した当時の部長、松本和茂氏が残された名言の1つに、 「ブルーグラスを『学生時代の思い出』で終わらせるな」というのがあります。 後輩の私が言うのも僭越ですが、非常に良い言葉だと思います。氏はかつて、ムーンシャイナー誌に 北大ブル研の紹介記事を書かれた際にも、この言葉を使われたと思います(確か1990年6月号頃で、Lou Reidの写真が表紙の号だった と思います)。 私はその言葉に痛く感動し、その言葉を金言に卒業後もブルーグラッサ−として現役であることを 決心した次第です。金言のご利益あってか、就職後も(いまのところは)バンド活動を続けることができ 今に至っております。今年こそは、悲願の銀座ロッキートップ出演を果たすべく(←←卒業以来の私の大目標)、 まずは千葉(夏)フェスでアピールしようと練習に励んでいるところですが・・・さあ果たしてどうなるか。

さて、今年もフェスの季節の到来です。ブルーグラス関係者なら誰でも 心が踊る季節です。そこで今回のレビューはフェスシーズンにあわせて、「フェスにまつわるCD」を取り上げ てみました。

Bluegrass Masters / Various Artists (1965&66 Live At "Newport Folk Festival")

"Bluegrass Masters"という、名前からして非常に偉そうなこのCDは、「ブルーグラス第1世代」とよばれる 世代を代表する3つのブルーグラスバンドの、1960年代のフェスにおけるライブ演奏を収録したものです。
ジャケットの色が、いかにも"Bluegrass(=青い芝)"を感じさせて良い味を出しています。
収録されている3バンドは、古めのブルーグラスが好きなファンにはお馴染みの顔ぶれ、 正に3横綱そろい踏みという感じです。
フェスは、米国ロードアイランド州で開催のNewport Folk Festival。ブルーグラスだけでは なく、ブルース・フォーク等の様々な音楽ジャンルのバンドが一同に会するという形のフェスです。 ものの本によると観客数は数千人にものぼったとか…あー一度で良いからそんな大勢の人前で演奏してみたいなー…


このCDで特に注目したいのはJim&Jesseの演奏です。
Jim&Jesseというバンドは、Jim&Jesse兄弟によってデュエットで歌われるコーラスが大変美しいバンドとして 知られています。何やら少年のような純真さを感じさせるその独特のコーラスは、ブルーグラスにありがちな 「High Lonesome」的な歌い方とは異質に聞こえます。「ウイ−ン少年合唱団」の中から少年2人を連れてきて ブルーグラスバンドをバックに合唱させたような……というのはちょっと違うでしょうが、 とにかく歌声がきれいなブルーグラスを聞いてみたいと思う方にはお勧めのバンドと言えます。

しかしコーラスに注目するあまり、彼らの器楽演奏の凄さを忘れてはいけません。 実は私も大学2年生の頃、初めて彼らのレコードを聞き始めた時分には、 Jim&Jesseはどっちかというとコーラス主体で、こぎれいで爽やかな演奏は得意だが あまり「凄さ」を感じさせるバンドではないように思っていたのですが・・・そんな私の固定観念を 吹き飛ばしてくれる、このCDでの彼らのステージです。おそらくこの頃がバンドとして 絶頂期なのでしょう、売りのコーラスに加え、楽器面でも冴え渡って、最高の演奏です。

もっとも「凄さ」を感じさせるのが10曲目のAlabam'です。
マンドリン弾きであれば、Jesse McReynoldsのトレードマークである「クロスピッキング奏法」に 一度は心を奪われた経験をお持ちでないかと思います。このクロスピッキングはJesseの「必殺技」でありまして、 ミディアムテンポの曲でソロを弾く際には、Jesseは必ずといって良いほどこのテクを用います。 本CD以外のJesseの録音に入っているクロスピッキングを聴いてみると、確かに凄いことは凄いのですが、 敢えて正確に言うなら「凄い…でも、音数が多すぎて訳がわからない…」という但し書き付きの凄さの場合が多いような気がします。

このCDのAlabam'のマンドリンソロから受ける印象は全然違います。何やらドライブ感というか、うねりのようなものが マンドリンから発しているのが感じられるのです。Jesseのクロスピッキングが、まるでBanjoがロール するときのように曲全体を引っ張っているのです。聴いているこっちまで引き込まれそうになります。 そして何よりも、本ソロにおいては上記の「訳のわからなさ」を少しも感じません。弾いているフレーズ自体は 曲のメインフレーズとは全然違いますが、それでいて違和感がありません。Jesseの「俺はこう弾くんだ!」という強烈な 主張が感じられ、聴いてるこっちも思わず納得させられてしまうのです。これぞ「Mandolinロール (と勝手に呼ばせていただきます)」の完成形を目(耳?)の当たりにしたような気分にさせられます。 マンドリン弾きとしては、この1曲を聴けただけでも本CDを入手した甲斐あったと思わされるのです。

Alabam'以外で注目は11曲目、チャックベリーの名曲Memphisです。これを兄弟コーラスで堂々と やってしまうのがすごいです。
他にも13曲目のBetter Times-a Comingは、いかにもアメリカの田舎で受けそうな (これって、「アメリカの田舎」に対する偏見かな?)ホノボノした曲。 Jesseの歌い方にもどことなく陽気さが漂っています。いかにも「アメリカの田舎」を感じさせる 彼の声質がたまりません。
15曲目のThe Grave In the Valleyはゴスペル。今度はお兄さんのJimの歌ですが、これも良い。 まるで少年合唱団を思わせる、クリアーで純真そうで、ちょっと気だるそうな歌い声はJimならではのものです。

Jim&Jesse以外にも、このCDにはブルーグラスの超々有名人(というか、創始者)であるBillMonroeと Flatt&Scruggsの演奏も収録されているのですが、そちらのレビューついてはどなたか別の方にお譲りするということで、 あえて今回は割愛致します。

Jim&JesseはこのNewport'66以外にも、Newport'63やBean Blossom'73、そして Live In Japan'75など、数々の素晴らしいライブ録音を残していますが、 個人的にはこのNewport'66のJim&Jesseが一番気に入ってます。 '70年代以降の、すっかりベテランとなって余裕を感じさせる演奏も悪くはないのですが、 Newportでの彼らとは上記の「Mandolinロール」そして「熱さ」という点が違うような気がするのです。
Jim&Jesseは70歳を超えた今なお現役です。さすがにお年のせいか往年の凄さはもう見られませんが、 あの息の合った兄弟デュエットを少しでも長く聞かせつづけて欲しいものです。


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Bill Monroe / Bean Blossom(1973)
Bill Monroe & His Bluegrass Boys
1. Mule Skinner Blues
2. You Won't Be Satisfied That Way
3. Uncle Pen
4. Blue Moon Of Kentucky
Jim & Jesse & The Virginia Boys
5. Old Slew Foot
6. Sweet Little Miss Blue Eyes
7. Please Be My Love
8. I Wish You Knew
James Monroe & The Midnight Ramblers
12. Love Please Come Home
13. Train'45
14. Bonny
15. When My Blue Moon Turns To Gold Again
Jimmy Martin & The Sunny Mountain Boys
16. Hit Parade Of Love
17. Mary Ann
18. Sunny Side Of The Mountain
19. Freeborn Man
20. Tennessee
Lester Flatt & The Nashville Grass
9. Roll In My Sweet Baby's Arms
10. Feudin' Banjos
11. Ballad Of Jed Clampett
Bill Monroe with Various Guests
21. Roll On Buddy(w James Monroe)
22. I Wonder Where You Are Tonight(w Jim & Jesse)
23. Orange Blossom Special(w Carl Jackson)
24. Down Yonder(w Fiddlers)
25. Soldier's Joy
26. Grey Eagle
27. Swing Low, Sweet Chariot
Bill Monroe & His Bluegrass Boys
Jim & Jesse & The Virginia Boys
James Monroe & The Midnight Ramblers
Jimmy Martin & The Sunny Mountain Boys
Lester Flatt & The Nashville Grass
Carl Jackson
Fiddler's Jam Session
Label/No etc. MCA  番号?
お買い求め情報 大きなCD店であれば手に入るでしょう
備 考 1973年のライブ録音


私にとってのフェスの魅力
ブルーグラスを演奏される方であれば、大部分の方はフェスが好きだと思いますが、 御多分に漏れず私もフェスは大好きです。
何故かというと、私にとってフェスは「非日常」そのものだからです。 フェスには人里離れた会場でのステージ・出店・キャンプ生活 等々、現代社会には見慣れない数々のアイテムが揃っています。 普段どんなに仕事に追われていたとしても、フェス会場に行けばすべて忘れちゃえます。 最高の気分転換法ですね。金一さんが昔言ってたフレーズ、 「フェスは楽しまなくちゃ…楽しんで楽しんで、立ち直れなくなるくらいに… 」というのが思い出されます。
でも、個人的には、ただフェス会場へ行くだけではまだ不充分なのです。
やっぱりステージに出なければ、と思います。

何故か?本当の「フェスの魅力」はステージに上がってこそ味わえるように思うのです。 正規のバンドでもセッションでもかまいませんけど。 とにかく自らステージに上って初めて、本当にフェスに参加している気分になれるのです。
ちなみに私にとっては、北海道追分町安平山で行なわれた「追分町フェス」が 記念すべき「フェス原体験」でした。もう今はなくなってしまいましたけど。 あのフェスデビューのステ−ジは今も忘れられません。

Bill Monroe / Bean Blossom

前置きが長くなってすみません。今回のCDレビューには、 私にとって初めて聞いたフェスのライブということで、この「ビーム・ブロッサム」を 取り上げてみました。

「ビーム・ブロッサム」は、長らくビルモンローが主催していた、大変に伝統あるフェスだそうです。 と言っても私は実際に「ビーム・ブロッサム」へ行ったことはないので、 文献等を駆使して調べてみましたところ、にわかに信じ難い話が目白押しなのです。
曰く、開催期間は延々9日間にわたったとか、 観客数はのべ7万5千人を記録したとか、そのレポートがタイム誌に掲載されたとか・・・・ 70年代前半というのは、丁度ブルーグラス・フェスが一番盛り上がった時期だそうですが、 その代表格のようなビッグなスケールですね。

ただ、その割りにはこのCDから伝わってくる観客席の雰囲気・ボルテージは結構アットホーム な感じがして、100人や200人のレベルのような感じにも聞こえてしまうのですが・・・ でもせっかくそういう記載があることだし、7万5千人の大フェスとして聞いて見ましょう。

出ているバンドはもう説明するまでもありません。ビルモンローをはじめ、ジム&ジェシー、 ジェームスモンロー、ジミ−マーチンにレスターフラット。第1世代ブル−グラスの トップバンドが目白押しの中で、ジェームズモンローが名を連ねているのが面白いです。
彼らブルーグラス第1世代達がこのように大勢競演しているレコードというのは、 所属レコード会社の違いによるものでしょうが、オム二バス盤を除けばあまりないと思います。

1バンド目が、フェス主催者でもあるビルモンローです。 マンドリンのカットを聞いていると、本当にビルが自信満々で演奏してる感じが伝わってきますね。 何と言いますか、とにかくノリノリです。 フィドルにはケニ−ベイカー、バンジョーにはジャックヒックス という一流プレイヤーを擁しての演奏は聞き応え十分。ビルモンローの演奏って、 そのときのサイドメン次第で結構出来が違ってしまうように思いますが、このときの面子による バンドサウンドは、ビルが独走しすぎるわけでもなく大変安定していて、良い感じになってます。
個人的には2曲目のYouWontBeSatisfiedThatWayに一番気に入ってます。

2バンド目がジム&ジェシー。個人的にはジム&ジェシーは非常に好きなバンドなので、 この2番手というポジションはちょっと彼らを軽んじすぎでは?思うのでですがどうでしょう。 出演バンドを考えれば2番手はジェームズモンローが妥当では?などと思ってしまうのです。 (ちなみに北大ブル研の定演では、2番手は1年生バンドが務めるもの、というのが暗黙の了解でしたが) そういう憶測的なことはさておき、ジム&ジェシーの素晴らしいコーラスと演奏、およびサービス 精神あふれるMC(受け狙いでJonnyCashの真似をしたりしているようです。残念ながらさほど受けません) が楽しめます。バンジヨーのビックジョーダンが随所で際立っています。 Old Slew Footのキックオフなどは何度聞いてもかっこいいです。

3バンド目がビルの息子、ジェームズモンロー。 個人的にジェームズのギターはさほど魅力を感じませんけど・・・バンジョーはMarcPruettでしょうか? 派手ではないが、音色もタイミングもすごく聞きやすいバンジョーです。Train45などは、ジェームズの 執拗なGuランにもペースを乱されることなく受け流し、ひたすら正道を守る、という感じが出ていて、 何かMarcPruettに「けなげさ」すら感じます。このバンジョーのお陰で、何とかまとまった感じのステージ となっているな、という感じがします。

4バンド目がジミ−マーチン。ジミ−マーチンについての詳細は近藤君の記事をご覧下さい。 でも、この人って観客を乗せるのが本当に上手いですね。MCでの客席とのコミュニケーション振りも、 他のバンドと較べるとピカ一。このフェス一番の人気バンドという感じがします。

5バンド目はレスターフラット。Flatt&Scruggsを解散して数年後のステージで、 バンジョーはスクラッグスに代わってハスケル・マコ−ミックです。スクラッグスのような 余裕はないものの、パワフルで感じの良いバンジョーを弾いています。 マーティスチュアートとのDuelingBanjosなどは何度でも聞き返したくなる秀作だと思います。 RollInMyの出だしでいきなりつまずきさえしなければ、 もっともっと彼の評価は上がったのではないでしょうか?

このほか、このCDにはフェス恒例のセッションも収録されていて、これらがまた良い味を出して、 雰囲気を盛り上げています。そろそろフェスも日曜昼過ぎ、佳境に入ってきたという感じでしょうか。 カールジャクソンのバンジョー、フィドラーズセッション、そしてお約束のSwingLowの大合唱での 見事な締めくくりです。

というわけで、出演バンドは有名所揃いでスタンダード曲が一通り聴け、 観客のボルテージも高く、しかも比較的手に入りやすい(私はこのCDを札幌市の ダイエー麻生店のレコード店で入手しました)ということで、 特にブルーグラス入門者の方にはお勧めの一枚だと思います。 所々に「隠れた名曲」的なものも入っており (ビルモンローのYouWontBeSatisfiedThatWayやジム&ジェシーのPleaseBeMyLove、 ジミ−マーチンのMaryAnnなど)ベテランリスナーの方々の鑑賞にも 耐えうる一枚ではないかと思います。


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Hot Rize / Untold Stories(1987)
1. Are You Tired Of Me, My Darling
2. Untold Stories
3. Just Like You
4. Country Blues
5. Blue Grass Part Three
6. Won't You Come And Sing For Me
7. Life's Too Short
8. You Don't Have To Move The Mountain
9. Shadows In My Room
10. Don't Make Me Belive
11. Wild Ride
12. Late In The Day
Nick Forster : Bass,Vocals
Tim O'Brien : Mandolin,Fidddle,Guitar,Vocals
Charles Sawtelle : Guitar
Pete Wernick: Banjo,Vocals
Jerry Douglas : Dobro
Label/No etc. SUGAR HILL 3756
お買い求め情報 大きなCD店(TOWER RECORD等)にならあるでしょう
備 考

Hot Rize / Untold Stories

HotRizeが解散してもうそろそろ10年にもなりますから、若手の方々には馴染みのないバンドかも しれません。一方で70年代以前からのベテラン?ブルーグラス経験者の方々にとってHotRizeは80年代以降の、 いわゆるトラディショナル回帰の新世代バンドに属するバンドの一つであり、やはりあまり馴染みがないという方が多いよう です。HotRizeはそういう中途半端な、どこからも注目されないような位置付けをされているのが現状 ではないでしょうか?でも私はHotRizeの作品は素晴らしいと思いますし、もっと注目を集めても いいのにと思います。というわけで今回はHotRizeの作品の中から私的にはベストの一枚、 "Untold Stories"を取り上げます。

個人的にTim O'Brienの大ファンなので、Timの話を中心に進めさせてもらいますと、HotRizeとして5作目にあたる本作品は、 「ブルーグラスの全レコードの中で、Timの魅力が 一番発揮されているアルバム」であると個人的には思います。 (後のTimのソロアルバムは、ブルーグラスの範疇からは一応除外・・・ということで) HotRizeが結成当初から好んで取上げていたストレートなブルーグラスに、 Timの独自の世界が併さって出来たのが本アルバムである、というのが私の 認識です。

このアルバムの魅力を一言で言うと「すごく聴きやすい」ことでしょうか・・・ これは、バンドの音作りのコンセプトが変化したためだと思います。
 HotRizeのアルバムというと、バンジョー弾きPeteWernickによる音作り (ギターの音を最小限にしてバンジョー音を生かす、という独特の手法ですね)がまず中心にあり、 それにTimや他メンバーの曲を少しづつ加えていくという感じで選曲していくというのが、 結成以来の変わらぬ方針であったように思います。
 "Untold Stories"ではその図式を一から書き直して、Timとベース弾きのNickForsterの2人 によるボーカルを中心に据え、他のメンバー達はひたすらバックアップにまわることで、より聴き易い音作りを図ろう、 という方針に変わっているように思えます。  初めてドブロ弾き(JerryDouglas)を加えたのも、ボーカルを活かす音作りのためなのかな ・・・と勝手に思ったりします。

Timの声質自体もこの頃から少し変わってきている(低くなってるように思う)、 ことにもよるのでしょうが、 これまでよりも重厚な感じの曲が多く取り上げられています。
CarterFamilyの@、HazelDickensのE、DelmoreBrothersのFはいずれも古ーい感じのデュエット曲で、 Timの声に無理なく合う曲のように思えます。特にEでは、かの名盤「Take Me Back」にてTimが披露していた ローピッチのボーカルの魅力が存分に感じられます。低い音域で歌うときのTimは、高い音域での歌よりも 声の抑揚・感情表現が格段にアップし、息使いまで良く聞こえるように思います。
これまでHotRizeにおけるボーカリストとしてのTimは、どちらかというといかにもブルーグラスらしい、 思いきり高いキーで声を張り上げる歌い方に徹しているところがあり、それが魅力でもあり不満な点 (随分無理してハイロンサムにしてるなー、と常々思っていました)でもあったのですが、このアルバム に至ってようやく、自分の得意技を押し出してきている観があります。

また、これまでHotRizeが必ず取上げていたブルーグラス・スタンダード曲が本作には1曲も登場 しないのも注目です。
一方でTimの自作曲(A・K)はブルーグラスにこだわらない独自の世界が感じられ、 この後Timがソロ活動で展開することになる作品群の原型を 垣間見ることができます。AK共に、カントリーの有名女性歌手によってカバーされています。 NickForsterとPeteWernickの曲(B・H・I)も比較的メロディー重視の曲で、 「隠れた名曲」的な趣きがあります。
中でも愁眉の一曲は、やはりラストKLate In The Dayですね。Timのギターによる弾き語りの曲です。 主線においてTimの唄とJerryDouglasのドブロが、互いに呼び合うような感じがたまりません。

Timのワンマンショーのようなレビューになってしまいましたが、もちろん他のメンバーの演奏も良いです。 特にPete Wernickのバンジョーは凄くGoodです。上述した通り、本作ではあくまでもTimのバック アップに徹しているのであまり前面には出てきませんが、随所で良いフレーズを聞かせてくれます。 (@Are You Tired Of Meのソロなんか特に良いです)
とにかく素晴らしく洗練されたアルバムですので、ぜひ一度お聞きになることをお勧めします。


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