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11PM

「11PM」は深夜枠ワイドショーの先駆けで、手元の資料によりますと、放送開始は1965年11月。
昭和40年ですから、やはりこの番組の歴史的価値は極めて高いと断言できましょう。

しかし私はここで 11PMの番組内容に関し、何ひとつ語れるようなものを持ち合わせていないことを告白しなければなりません。
この革新的お色気番組を、早熟にも幼少時より日々視聴し、そこで得た知識を翌日クラスの男子を集め熱く語る・・・。
こうした絵に描いたような体験をお持ちの皆さんこそ、この11PMを「俺の番組」として雄弁に語る資格があるというもの。

しかし残念ながら満足なテレビジョンさえ配備されていなかった私の家では、この番組は決して覗くことのできない秘密の世界です。
私の脳内では、噂の11PMという番組が一体どんなことになっているのかという想像だけが竜のように暴れ回っていたのですが、中学に入ってTVが家庭に導入されるようになってからも、茶の間内にこうした番組を楽しむ気運が盛り上がることもなく、結局大学入学後に1人暮らしをするようになって初めて、この番組を何不自由なく見る環境が整ったのです。
その頃には11PMの話題で興奮している人間は既に絶滅していました。


曲は高速の4ビート。
ゴージャスに仕立てようという意図は明確にうかがえるのですが、「シャバダバシャバダバ」という男女コーラスがむしろ低俗感を強力に増幅させ、女性の輪郭の映像とのマッチアップが完璧です。

一方、クロージングですが、いくら曲を終わらせたいからと言っても、突然「ルールールールー」で終わらせるとはなかなか強引ですね。
「取って付けたような」という表現しか思い浮かばないほど唐突ですが、その秘密をちょっと探ってみましょう。

まず気になるのが曲の前半部で、良く聞くとオープニングとクロージングでは殆どサウンドに差がないように思えます。
昨今世の中で流れている音楽を考えてみますと、歌謡曲からアニメ主題歌まで、およそ全てをコンピュータ制御によって機械が演奏しており、例えば1番と2番が寸分違わず同じ音というのも珍しいことではありません。

しかし11PMの時代となると全く話は別で、レコードやテレビでの伴奏等は全てバンドやオーケストラによる実際の人力演奏です。
とすると、均質な演奏ができるよう余程訓練されていたとしても、この11PMのオープニングとクロージングの同一さはちょっと奇異に感じます。

何度も注意深く聞き返して、まず間違いないと思うのは、前半部はオープニングと全く同じテープを使用した上で、最後の「Ru-Ru-Ru-Ru-」だけを繋げているということ。
繋ぎ目を自然に仕上げるため、直前の「Wee!」の部分で2本のテープをラップさせているようです。

人間の耳は敏感とバカの中間で、あからさまな違いはすぐ気付くのですが、ちょっとした細工をされると何も気付かないもの。一瞬のオーバーラップ部を設けて2つの音を繋ぐというのは 音響の制作の世界ではとても良く用いる(用いた)アナログ的かつ非常に有効な手法ですが、「取って付けたような」エンディングは、実際、取って付けたものだったというわけなんですね。

細部まで魅惑の11PMの世界。
実験的で刺激的な番組にふさわしいサウンドは、いまも私達の心を捉えて離しません。


11PM続編!--------------------------------------------

2004年4月7日、「ねずみ算」さんという方からお便りを頂きました。
たまたま貴サイトを拝見し、11PMの演奏者にそのコピーを見せたところ、次のようなメッセージがありましたのでご紹介します。
・・・え?!
11PMのテーマを実際に演奏された方からのメッセージ!?
想像だにしていなかった事態です。私はなんて幸せな人間なのでしょう!

11PMのテーマは以前より1chで取り上げ、Liveハシモトコウアワーでも実演するほど私が入れ込んでいる歴史的名曲。
それを実際にプレイした方からメッセージをいただけるとは・・・。

以下、全文を引用させていただきます。
11PMは、「光子の窓」などミュージックバラエティの草分け的番組を作られた名ディレクター井原忠高氏によるもので、自らもベースの名手でもあり、ジャズ・ポピュラーに詳しい氏は、新しいタイプの番組のテーマミュージックにふさわしい作曲家として、当時新進気鋭のアレンジャー三保敬太郎氏に白羽の矢を立てたのです。
なるほど、なるほど。
当時はスウィングルシンガーズのスキャットがやっと耳に入るかどうかという時期でしたが、いち早くスキャットを取り入れ、当時としてはまさに画期的なことで、新しいタイプの番組にふさわしい、期待にたがわぬテーマだったと思います。
その才能豊かな三保氏の早世はまことに惜しまれたものです。
モノの本でしか読んだことがない私などが言うのもはばかられますが、全くもってそう思います。

録音時のこと。
この種のレコーディングはご存じのように、その場で譜面が渡され、何回かのテストの後、本番に入りますが、お聴きのようにかなりアップテンポですので、さすがのベテランプレイヤーたちも、そうとう必死だったようです。
なおオリジナルではピアノはなかったように思います。ピアノの三保さんは指揮をしていましたから。
一時間ほどでレコーディングは終了したと思いますが、オープニングとクロージングはそれぞれ通しで演奏しています。
コーダの別録りはしていません。技術の方で、後で切り張りしたかどうかは分かりません。
ピアノの三保さんは指揮をしていた等々の記述は、さすがに臨場感があります。
コーダの別録りの件は、私が聞く限り、クロージングの方を切り張りしていることで間違いように思うのですが、少なくとも現場では双方を通しで演奏していたということも分かりました。


ところで、メッセージの最後で、
ちなみに、声の演奏者は二人ともれっきとした「まじめな」クラシックの歌い手です。
ですから、低俗感を増幅させるとありますが、このテーマソングでその低俗化をむしろ浄化していたのではないかと密かに自負しているところです。
と書かれてありました。

これは私が
「ゴージャスに仕立てようという意図は明確にうかがえるのですが、『シャバダバシャバダバ』という男女コーラスがむしろ低俗感を強力に増幅させています。」
と書いたことに対するコメントで、実は読んだ瞬間、失礼なことを書いてしまったかなという思いがよぎりました。
しかし、それでも敢えて聞き手としての思いを素直に述べさせていただくなら、この『シャバダバシャバダバ』が感じさせる何とも言えない"猥雑さ"のようなもの自体が、この曲の、この番組の最大の魅力ではないかと思っています。

お手紙の最後にはこうありました。
レコーディングの後はほとんど聴いていませんが、記憶を頼りに譜面にしてみましたので、ご希望があればお送りします。ただし、コードまでは分かりません。
希望しない理由などどこに存在いたしましょう。是非ともお願いする所存であります。
何より、こんな低次元なHPの存在を演奏者の方に御紹介いただき、その方のメッセージをお送り下さった「ねずみ算」様、本当にありがとうございます。


11PM続々編!!--------------------------------------------

2004年4月23日、郵便が届き、中から左の楽譜が出てきました。
上の「ねずみ算」さんからの流れお送り頂いた、日本の音楽界の宝のような楽譜です。

「引退した無名の音楽家」というクレジット。
目にした瞬間、なんだかカッコ良くて泣けてきました。

いま一体おいくつになる方なんでしょうか。
当時20才なら60才くらい、30才なら70才くらい、いずれにしてもそれなりのお年をお召しのはず。
加えて、当時からこんな音楽シーンの最前線にいた方が、本当の意味で「無名の音楽家」の私のために、よくも1枚の譜を起こして下さったものだと思えてなりません。

この譜を送って下さったのは、「引退した無名の音楽家」さんの御友人の「ねずみ算」さん。
同封していただいたお手紙の文面は、この間に執っていただいた労に対するコメントなど何一つなく、只々、「無名の音楽家」さんの人柄を伝えて下さっており、これがまたジーンとくるわけです。

そしてねずみ算さんのお手紙は、以下のように結ばれていました。
 「橋本さんがお生まれになったのが東京オリンピックの年だそうですが、11PMの録音はその翌年、私が高2の時でした。」