札幌ロマンチカシアターほうぼう舎
Introduction


第1回 瓶中闇雲捕物帳
第2回 星影の円舞曲
第3回 ペチカ
第4回 忘れ咲き彼岸花
第5回 薄紅の凡歌
第6回 かかし
第7回 砂時計
第8回 俯しのビアホール
第9回 天守物語
 
爐 −ペチカ−

第3回公演
1988年(昭和63年) 12月9(金) 10(土) 11(日) 12(月)
 札幌市北区八軒1条西1丁目 JR琴似駅前劇場
poster  ticket
作・演出 斉藤歩
舞台監督 鈴木昌裕
美術 横山敏宏 望月静華
調光 川村瀬戸 鍛冶理恵 サーヤ
映像 戸塚直人
スチール 熊本万里
音楽 橋本幸
役者 桜太郎 ムッシュ・ポール・ラリルローレ=中井 轟虎子 中田晴美 マコニ メロンパン広重 斉藤駆
コーラス ほーぼーブラザーズ
 玉麗華
注)公演当初のポスター・ビラ等に記載されたクレジットから転記しており、その後の加入・交替等を反映していない場合があることをご承知おき下さい。


第3回公演 爐

1987年に旗上げし、「瓶中闇雲捕物帳」、「星影の円舞曲」を打って、何となく順調そうにすべり出したほうぼう舎でしたが、思わぬ問題が発生しました。それが、公演場所としていた札幌市北区新川の倉庫の取り壊し。
ガラーンとした殺風景な倉庫は、それ自体が独特の存在感を放って既に私達の一部でありましたので、その取り壊しは物理的に公演場所を失うという以上のダメージです。

旗揚げの時と同じように、再び我々の公演場所探しが始まりました。
一度手にした倉庫の感触は忘れがたく、空き倉庫の情報を収集しては見て回る私達。
中央区、北区、東区、すすきの・・・。
と言ったって当時の好景気の中、倉庫を空いたままで保有し、まして金にもならない貧乏劇団に安価で貸してくれる方などそうそういるとも思えません。
予想していた通り、場所探しは難航を極めました。

*

紅千鶴=斉藤千鶴は学生時代からの斎藤歩の言わば盟友で、ほうぼう舎の旗揚げから参画している中心人物です。
彼女はこうした場所探しや人探しなど、「足で稼ぐ」仕事をやらせたら右に出る者がいない "突撃系営業活動"の天才であります。
御存知の方は御存知の通り、特段器用なタイプではないので、行く場所行く場所で色々と大変な思いをすることも多々あるのだと思うのですが、行動力は抜きん出ており、必ず結果を出して帰ってくる、恐るべき女でした。

西区のJR琴似駅横にまさしく穴場的に立っていた石造りの倉庫は、こうした彼女の「絨毯爆撃的サーチ」の結果、ある意味必然的に発見されたと言えましょう。
昭和初期の缶詰工場だったこの空間は、この後、最後の公演まで劇団の世界を支えてくれることとなります。

*

北海道の札幌の真冬の倉庫の中なんて言ったら、それはもう、寒いなんてもんじゃありません。
うっかりしていると3時間くらい「寒い・・・」という一種類の言葉しか発していなかったりするくらいです。

そんな倉庫で真冬に打ったこの「ペチカ」。
寒さの中行われる稽古はほとんど苦行で、暖かいのは芝居のタイトルだけ。まともな体調の劇団員はほどなく1人もいなくなりました。

それでもどうにか初日を迎え、あとは千秋楽まで役者がもってくれと心から祈りつつ開演。舞台に登場した役者・マコニ氏の第1声に私達は仰天しました。
「・・・、・・・・・。・・・・・・・・・・。」

無音なのです。
声が小さいとか聞き取りにくいというレベルじゃなく、本当に無音。
劣悪を極めた環境の中で、新人役者だった当時の彼の喉は、本番スタートと同時にフィニッシュを迎えたのでした。

口と体だけが猛然と動いているマコニ氏。
一方で同時に登場した相方のムッシュ中井氏の声は十分すぎる体力に支えられて大きさ・ハリ共に申し分なく、コントラストは一層際立ち、最初は何かの演技プランか?と本気で思ったほどです。
シャカシャカした摩擦音だけが聞こえながら進んでいく真冬の物語。

「シュール過ぎる・・・。」
客席後方の音響席の私は、芝居の行く末を案じゴクリを唾を飲み込みました。

しかしお客様とは本当に有り難いもので、このただならぬ世界の中、気が付くと、何やらシャカシャカ言っている役者の真意を理解しようという集中力で倉庫中が満たされ、芝居は無事に(?)終了したのでした。今考えても、自分の芝居人生の中で最大の不思議体験の一つであります。
以後、マコニ氏は この悲劇をバネに(したかどうかは知りませんが)、"ほうぼう舎唯一の二枚目男優"という看板を勝手に背負わされ、大きく成長を遂げて行くのでした。

*

主人公はサーカスのフェンスの向こう側にいる女。
凍えたカラダをはりつけて 凍えたフェンスにはりつけて
 手を伸ばしても届かない フェンスの向こうの遊園地
私の背中がそうさせる 私の背中が覚えてる
 手を伸ばしても届かない フェンスの向こうの遊園地   >♪フェンスの向こうの遊園地
冬に冷え込むと、私は今でも「ペチカ」の芝居と寒さと唄を思い出します。

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