Theater Archive
 札幌ロマンチカシアターほうぼう舎
第1回 瓶中闇雲捕物帳
第2回 星影の円舞曲
第3回 ペチカ
第4回 忘れ咲き彼岸花
第5回 薄紅の凡歌
第6回 かかし
第7回 砂時計
第8回 俯しのビアホール
第9回 天守物語
 
第4回公演 忘れ咲き彼岸花

1989年(平成元年) 9月22(金) 23(土) 24(日) 25(月)
 札幌市北区八軒1条西1丁目 JR琴似駅前劇場
poster  ticket
作・演出 斉藤歩
舞台監督 鈴木昌裕
照明 中井清史
美術 横山敏宏 鍛冶理恵 望月静華 竹貫香
人形製作 戸塚直人
音楽 橋本幸
役者 桜太郎 すえざわりゅうしん 中田晴美 中西道代 半玉骨 斉藤歩
(クレジットは公演当初のポスター・ビラ等に記載のもので、その後の加入・交替等を反映していない場合があることを御了承下さい)



忘れ咲き彼岸花(わすれざきひがんばな)

ほうぼう舎のポスターは、横山敏宏謹製。彼は、シルク・スクリーンの使い手です。それはもう鮮やかなもんでした。
辞書で"シルク・スクリーン"を調べると、
孔版印刷の一種。
木または金属の枠に張った絹・ナイロンなどを版材とし、画線部は細かい織り目を通してインクを定着させる印刷法。
初め、スクリーンに絹を用いたところから、シルク-スクリーンともいう。
1色ごとに版をおこし、木枠に張ってインクを乗せ、"スクィージ"と呼ばれるゴムベラを一気に引くと、細かい織り目を通してインクが透過し、紙に定着して行きます。
紙の上に1色1色、厚みを持って重ねられていくポスターのその質感は、結果として生じる1枚1枚の微妙な異なりとも相俟って、それぞれがこの世に1枚しかないという「大切な感じ」に満ちています。
横山敏宏はシルク・スクリーンの使い手という以前に魅力的な絵描きであり、台本をもとに原画を描き、作・演出の斎藤や役者・スタッフとイメージのすりあわせをしながらポスターを完成させていきます。

私は横山作品のファンで、一緒に打った芝居のポスターは全て大切に所有していますが、どれか1枚と言われたらこの「忘れ咲き彼岸花」。
色味、構図、そして時間が止まっているようでもあり流れているようでもある全体の雰囲気と、どれをとっても好きなのです。

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「忘れ咲き彼岸花」は、田中という名の人形師が、命のあるマネキン人形を作ってしまい、最終的には自身の行き詰まりの中でその人形を壊してしまうというお話。
当時のほうぼう舎の作品の中でも広く支持して頂いた作品で、斎藤がほうぼう舎を離れた後の1993年にも「北海道演劇財団」の設立準備会企画として、鈴木喜三夫さんに演出して頂き再演されています。

人形師を演じたのはすえざわりゅうしん。
劇団旗揚げ時のメンバーで、お寺の住職。個性的としか言いようのない持ち味で、この人形師を好演しました。
すえざわは、91年の砂時計で再び主役を演じています。

彼が演じた人形師=田中は持ち物すべてに「田中」と名前を書いてしまうという設定なのですが、 すえざわは役作りの一環として、当時の彼の実家の茶碗や靴といった日用品の全てに「田中」と書き込んでしまい、 家族を大いに困らせたという話が残っています。
役作りへの没頭は美しいとしても、家のモノにはせめて「すえざわ」と書けば良いのにと周囲を驚かせました。

この芝居の役者はクレジット上わずかに6人で、当時のほうぼう舎の台所事情そのものです。
劇団の芝居に何百人ものお客様が来て下さるようになったのはもっと後の話で、初演・2本目・3本目と、興行的には極めて厳しい状態が続いていました。
勿論、赤字。
劇団員も少なく配役にも苦労するような状態で、この芝居でも新加入の中田晴美と中西道代を加えても5人。かつて北大演研に所属し、その後しばらく舞台に立っていなかった半玉骨を必死に口説き落として、ようやく必要な役者を確保するというような状態でした。

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左はこの時期に製作された、ほうぼう舎の緞帳です。
縦3m・横5m。幕前の客入れ時は、この緞帳が客席の前に鎮座しています。

画は鍛冶理恵。
星影の円舞曲の頃に入ってきた当時、まだ専門学校生だった彼女。
一見ヤンキー風の彼女は、実は本当にヤンキーなのか、えらく根性が座っており、舞台上の書割描きから本番の照明持ちまで下働き全般それはそれはよく働いたもんです。
私は彼女の絵がとても好きで、自分が構成担当だった新聞「ほうぼう」(翌年より発行)にも彼女の絵がゴロゴロしています。

その鍛冶理恵の、物理的にも最大の作品がこの緞帳。
インクの厚みさえ感じられるこのゴツゴツした緞帳を見た時は、言葉を飲み込みました。
この絵を見て「海底の音」というメロディが頭に浮かび、かじかんだ手でウッドベースを弾いて録音し、どアタマの暗転の中で流したのでした。
>♪海底の音

*

主題歌は「田中のマネキン人形」。
私は田中のマネキン人形
 この目はカラカラ乾いているけど
  あなたを見てます 涙も落ちる  >♪田中のマネキン人形
非常に切ない詩で、曲をつけていても切ない気持ちになる一曲でした。


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