Theater Archive
 札幌ロマンチカシアターほうぼう舎
第1回 瓶中闇雲捕物帳
第2回 星影の円舞曲
第3回 ペチカ

第4回 忘れ咲き彼岸花
第5回 薄紅の凡歌
第6回 かかし
第7回 砂時計
第8回 俯しのビアホール
第9回 天守物語
 
第5回公演 薄紅の凡歌

1990年(平成2年) 5月12(土) 13(日) 16(水) 17(木) 18(金)
 札幌市北区八軒1条西1丁目 JR琴似駅前劇場
poster  ticket
作・演出 斉藤歩
舞台監督 鈴木昌裕
美術 鍛冶理恵 西村優亜 竹貫香
振付 中田晴美
人形 戸塚直人
照明 川村瀬戸 山本昌美
音楽 橋本幸
役者 紅千鶴 中井清史 桜太郎 サーヤ マコニ 前張メロン 斉藤美樹 安川恭一 斉藤歩
(クレジットは公演当初のポスター・ビラ等に記載のもので、その後の加入・交替等を反映していない場合があることを御了承下さい)



薄紅の凡歌(うすくれないのぼんか)

ほうぼう舎を旗揚げして3年。
これまで4本の芝居を打った我々は、いい加減何とかしなければならない問題を抱えていました。それは興行成績です。

  第1回 瓶中闇雲捕物帳(計5日公演)  330名
  第2回 星影の円舞曲(計5日公演)  340名
  第3回 ペチカ(計4日公演)  350名
  第4回 忘れ咲き彼岸花(計4日公演)  360名

10人ずつ増えていくという、この堅調さがむしろ物悲しいですね。

良い芝居を打ってさえいれば客はおのずから増えるという理想主義的な幻想は捨て去りがたく、自分達の芝居に対する想い入れを深めるほど一層かたくなになっていくので始末が悪いのですが、ここに至って私達は「知ってもらわなければ観てもらえない」という当たり前の事実をようやく考えるに至りました。

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左は1993年元旦に発行した計4面の新聞「ほうぼう」です。

自分でデザインしていたので当時の原稿や見出しのレタリング、紙面割付の台紙等々が今も手元に残っているのですが、まあホントに「1990年ってこんな時代だったっけ・・・?」と感じずにはいられません。

唯一の文明の利器は鈴木昌裕個人所有のワープロ(勿論「ワープロ専用機」)。
打ち込んだ文章がガチャガチャとプリントアウトされた後は、全員ハサミと糊を持って総攻撃という超アナログの世界です。
慎重に貼り付け始めたものの、目測を誤って1行入りきらずに改行なんてことになったら、それはもう大騒ぎ。そーっと原紙から1行分を切り取って移植手術の開始です。
「貼ってはがせるスプレーのり」は我々にとっては神様のような存在で、スプレー用ブースと共に、ある意味劇団員以上に大切にされていました。

外注という選択肢もなかったわけではないのですが、当時は"小劇場ブーム"なるものの真っ最中で、市内だけ数えても劇団がたくさんありましたので、要は他の劇団と差別化を図るにはどうしたら良いかということばかり考えており、このアナログテイストに至っています。

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第1号の紙面上には、劇団の紹介、宣伝、スタッフ募集などが、殆ど雑煮のように放り込まれています。
その中の一つ、「トラック下さい」という途方もなく厚かましいお願いは、その後、思わぬ展開を見せることとなりました。

リリリリ・・・と力なく鳴るのが特徴だった当時の私の電話が、その日の朝も鳴りました。
相手は忘れもしない西区発寒の八百屋「鉄鋼ストアー」の社長さん。
 「トラック、あげるよ。」
え!!?? 眠気は一気に吹き飛びました。Say Again!!
 「トラック、あげるよ。ものすごく古いけどね。」
構うものですか。何しろトラックです。
興奮状態で飛び起き、急いでその西区鉄鋼ストアーに行ってみると、確かにものすごい古さでバッテリーも殆ど使えない状態。
しかしトラックです。豪華ホロ付1.5トントラック!
これで資・機材の運搬もできるし、巡業も可能になりましょう。くたびれた緑のホロが妙に大人の魅力を放っています。

名義を変更し、形式上、私・橋本の所有となったこのトラックは、その後様々な装飾が施され、情宣活動にも暗躍して、我々の芝居を強力にバックアップすることとなりました。

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この「薄紅の凡歌」から参加し、わずか2本で惜しまれつつほうぼう舎を去った安川恭一は、勢いのある大好きな役者でした。
"ほうぼう舎的"という括りがあるとすると、決してそうではない、いわば「何か違う」キャラクター。

しかし、ほうぼう舎の芝居の世界をこよなく愛して入って来てくれた彼は、その微妙な空気の違いとも相俟って、「浮いている」と「存在感ある」の中間あたりを絶妙にさまよいながら、人気を博したのです。

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ポスターの原画は西村優亜、題字は竹貫香です。

ほうぼう舎はどういうわけか美術スタッフに恵まれた劇団で、横山敏宏、戸塚直人、望月静華、鍛冶理恵、西村優亜、田中美好、竹貫香、佐藤ルカ・・・と、それぞれが全く似ていない個性を持った人達でした。
言葉にしてしまえば、同じ「美しい絵」や「楽しい絵」という中に実はこんなにたくさんの種類があることは、自分もほうぼう舎ではじめて知ったことであり、振り返れば何と贅沢だったのだろうと感じずにはいられません。

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この芝居のテーマ=凡歌は8小節の小曲です。
薄紅のかすみを抜けて
 あなたはどこへ 行こうというの  >♪薄紅の凡歌
芝居を始めた当初から、劇中の楽曲は基本的に舞台袖で生で弾いていた私。
しかしこの芝居の稽古の最中、「弾いている姿がお客様からも見えた方が、芝居と音楽の一体感が出て良いのではないか」という声が役者やスタッフの間で高まりました。
私も珍しくおだてられ、舞台にセットされた書き割りの上から顔が見えるような位置で試奏してみたところ、脈絡なく変質者が存在しているようにしか見えないと死ぬほど笑われて企画倒れに終わるという屈辱を受けています。

なお、新聞「ほうぼう」と装飾トラックを活用したゲリラ的情宣は共に功を奏し、本公演の動員数は720と、前回公演のちょうど2倍となりました。


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